放課後。楽しそうに騒ぐ生徒の声を背景にあたしは膝から崩れ落ちた。

 何気なく見た教室の窓の外。そこから見える中庭の大きな木の下で……。啓介と今朝の女の子がキスしてた。


 気分は最悪。まさか彼氏のキスシーンを本気で目撃してしまうとは。

 しかも校内であんな堂々と……。本気であり得ない。

 あたしは啓介の彼女じゃなかったの?


 「どうしたの?」


 その場に踞ったあたしの傍に教室に居たクラスメイトが駆け寄って来てくれた。

 けど、正直何も耳に入ってこない。泣かないようにするので精一杯。


 流れ落ちそうになる涙をグッと我慢して、あたしは「何でもなーい」と言って教室を飛び出した。


 鞄が置きっぱなしだったけど、取りに戻る余裕なんて今はない。

 もう嫌だ。浮気ばっかりで全然あたしを愛してくれない。こんなの彼女って言えないよ。


 「おわっ…、危なっ……」


 廊下を走っていたら焦った叫び声と同時にポフッと柔らかい感触に包まれた。

 目に映ったのは白いシャツの隙間から覗く鎖骨。血管が浮き出た逞しい腕。男の身体……?


 「……優太?」

 顔を上げたあたしの目の前に居たのは驚いたように目を見開く優太だった。


 「前、見ろよ。危ないし」


 そう言って優太はコツっとあたしの頭を叩く。

 悲しみの大絶頂に居たあたしは、どうやら優太とぶつかってしまったらしかった。

 そう優太と……。


 「うわぁぁぁーん! 優太ぁぁぁ」


 もう堪えられなかったあたしは、そのまま優太の胸の中で思いっきり泣いた。

 人目も憚らず。