優太の叫び声と共にあたしの頭の横を何かが物凄い速さで飛んでいった。

 風が舞って少しだけ髪が揺れる。


 「……え?」

 そう声を発した時には、その物体が啓介の頬を掠めて通り過ぎていった後だった。


 「今のは外してやったけど、次は顔面にストライクするからな」

 壁に跳ね返って足下に戻ってきた物体……、野球ボールを拾い、優太は険しい表情で啓介を睨む。


 「あんた誰よ」

 思わずそう尋ねてしまった。


 だって、いつもの優しい優太じゃない。

 怖いくらい真剣な顔をする優太は凛々しくて、男らしくて、何だか頼りがいがありそうで。

 カッコイイ……!


 ヤバイよ。優太。かっこ良すぎでしょ。

 優太ってこんなにかっこ良かったっけ?優太に胸キュンしてるよ!あたし……!!


 「……は?お前にキレられる筋合いはねぇし」

 それまで硬直していた啓介が我に返ったのか優太に掴み掛かる勢いで怒鳴る。


 「は?じゃねーし。お前がそんなノリで梨花と付き合ってるなら俺に譲れよ」

 歩み寄ってくる啓介に優太は真剣な顔のまま、そう言い返し……。


 「……え?」

 優太の発言にあたしは再び驚きの声を上げた。


 だって俺に譲ってくれって、そんな……。まさか優太ってあたしのことが好きだったの……!?

 急速に心臓の鼓動が速まっていく。


 全然気付かなかった。あたしって結構鈍感だったんだ。優太があたしを好き。好きだなんて、そんな。


 「あ?んなの梨花が決めることだろうが」


 苛立ちを隠せないんだろう。啓介は口調を荒らげた。

 そのくせ余裕な笑みを浮かべて、あたしに視線を送ってくる。


 「まぁ……、そうだけど」

 一方、優太は視線を落として唇を噛み締めた。

 何だかちょっと悔しそうに。


 ってか何?このあたしの取り合いみたいな昼ドラ風の展開は。

 どっちか選べってこと?絶対に答えなきゃイケナイ感じ?


 「そんなの答えなんて決まってるでしょ」


 あたしは啓介の彼女で。付き合って2ヶ月で。別れる決心も出来てなくて……。

 こんなの選ぶまでもない。