蝉が鳴き始めた7月中旬。もうすぐ夏休みだと浮き足立つ校内で。

 「夏の行事は全部パス」

 残酷なまでに呆気なく言い捨てられたこの言葉。


 「納得出来るかあぁぁっー!」

 そう叫んだのはあたし桃山梨花(ももやまりか)16歳。世間一般で言う、花の女子高生。


 そんなあたしに残酷な言葉を吐き捨てたのは、里田啓介(さとだ けいすけ)。サッカー部所属。

 顔は猫目で鼻が高い。身長も高い。俗に言うイケメンってやつ。で、超軽い。

 そして、あたしの彼氏……。


 「しゃーねぇだろー。もう、予定を詰め込んじまったんだから」

 そう言って煩わしそうにズボンのポッケに手を突っ込み、顔を歪めてあたしを見つめる啓介。


 うん。超がつくほど不愉快極まりない。何なのコイツは。苛つくのはこっちの方だし。



 「お祭りも花火も海もプールも全部無しってこと?」

 そう尋ねたあたしに啓介は呆れたように溜め息を吐く。

 「そ。部活もあるし無理だ」

 挙げ句に目も合わせずに淡々とした態度。


 「……嫌だ」

 あたしは啓介を睨んでギュッと唇を噛み締めた。


 “部活があるなら仕方ない。予定があるなら仕方ない”普通ならそう。それで諦めるところ。

 でも、それが出来ないのは……。


 「啓くぅ~ん?お祭りは私と行くでしょ~?」
 「当たり前だろ~!」

 近寄って来た女の子に甘ったるい声で返事をする、この浮気男の所為だ。


 いつも用事の相手って大体95%ぐらい女。女、女、女。もう、うんざりだ。

 しかもコイツらあたしの目の前で腕を絡めてイチャイチャと……許せない!


 「もういい!」

 あたしはバカどもにワントーン低い声で叫んで背中を向けた。


 「んだよ。うるせぇな」

 啓介がチッと小さく舌打ちを打ってきたけど、もう知らない。要らないし。あんな浮気男。