「ねえ、咲麻、久しぶりにあそこ行こうよ」


 やっぱり聞きなれない流星の声。

 でも、とても男らしくて耳障りのいい声だった。


 店を出た私たちは、二人でよく遊んだ公園に向かった。

 並んで歩いていると、流星の身長の高さにおどろいた。

 私より低かったはずなのに、この三年間であっという間に追い越されている。

 頭一つ分違う彼の顔を見上げながら、何を言おうか考えてしまう。


 なんだか、あの頃とは違う空気感……。


 うそでしょ……。


 何を話せばいいの……。


 心臓が不自然に鳴り響く。


 流星とただ話すだけなのに、こんなに勇気がいるなんて。


 ふいに向こうが、こちらを見ながら吹き出した。


「なんか、何話したらいいかわかんないね」



 ……。



「ふふっ、私もそう思ってた」

「ホント!? おんなじだね」


 このやりとりで、いっきに場が和んだ気がした。


「りゅう、身長伸びたね」

「そう? 咲麻も……変わったよ」


 久しぶりに名前を呼ばれ、顔が少し熱くなった。


「変わった? なにが?」

「かわいくなった」


 一瞬、呼吸の仕方を忘れるところだった。


 とっさに息を吸い込む。


「な、なにそれー! りゅうってそんなキャラだっけ!」

「え、違う違う。ホントのこと言っただけ」


 流星はあの頃と同じ澄んだ目で私の顔をのぞいてくる。


 けど顔つきはとても男らしくなっていて、悔しいけどカッコいいよね……。


 こんなのほんとにもう、反応に困る。


 今私の顔、真っ赤になってるんじゃないかな。


 私は話題をそらそうと、必死でまくしたてる。


「ねーねー、サッカー部入ってたんだね。見たよこの前、練習。みんなともうまくやってる感じだったね」

「え、見ててくれたの?」


 流星の顔に、あの頃のような無邪気な笑顔が咲いた。


「うん、まさかりゅうがサッカーやってるなんてね。ビックリした」

「だよね。いやあ、咲麻に笑われないようにさ、これでもけっこう頑張って練習したんだよ」


 ちょ、なにそれ。


 なんだかまるで私にいいところ見せようとしたいみたいな。


 そんな……泣き虫流星が、まさかね。


 彼は申し訳なさそうに声を絞り出す。


「ごめんね。ホントは学校で話したかったんだけど、いろいろ忙しくて」

「んーん、ぜんぜん。生徒会長もしてるんでしょ? すごいよね」

「やりたくなかったんだけど、みんながやれやれってうるさくてさ」


 私の知らない人間関係もあるんだよね。


 そりゃもちろんそうだよ。


 だって生徒会長だもん。


 それでいてサッカー部のエース。


 みんなから期待されてる存在。


 すぐそばを歩いてるはずの流星の足音が、なんだか急に遠ざかっていくような気がした。