「咲麻。りゅうくんに会えるの楽しみなんじゃない?」

「べつに」


 この町に帰ってきてから最初の週末。

 私は休日に母と二人である場所へ向かっていた。

 流星の両親がやっているカフェ。

 たしか私がここを離れる少し前にオープンし、開店当初はお客さんも少なかったので、流星といっしょによく入り浸っていたのを覚えている。


 コーヒーがまだ飲めなかった私はいつもオレンジジュースをもらってたっけ。



 三年ぶりに訪れたカフェ『STAR』は町の人気店になっていた。



 先に店内に入った私は、後ろの母を振り返る。


「お客さんいっぱいだよ」

「そうねえ。これだとりゅうくんと話せないかもしれないわね」

「だから! べつにりゅうと話しに来たわけじゃないし」

「でも学校でまだ話してないんでしょ?」

「だってクラス違うんだもん」


 その時、カウンターにいたアゴヒゲの男性がこちらに手を振った。


「二人ともいらっしゃい。奥のテーブル空いてるからどうぞ!」


 マスターでもある流星の父親だ。三年前にはなかったアゴヒゲがマスターの風格を漂わせている。

 その後、席につくと流星の母親が水を運んできてくれた。


 流星の姿はまだ見えない。いないのかな。


「咲麻ちゃん久しぶりー。おっきくなったねえ。りゅうは今練習行ってて、もうすぐ帰ってくると思うけど」

「えっ! いや……」


 うろたえている私の様子を、母が向かいの席でにっこりしながら眺めている。


 その後、チーズケーキとコーヒーを注文し、母といっしょにいただいた。


 口の中にふわっと広がる濃厚なチーズの風味。

 言うことなし。

 こんなにおいしかったっけ。


 おばさんの作るケーキと、おじさんの淹れるコーヒー。


 これは人気店になるのもうなずけるほどのおいしさだった。


「このケーキ、おばさんの手作りなんだよね。おいしいよね」

「すごいわねえ。母さんも作ってみようかな」


 そうやって母としゃべっていると、ふいにそばに誰かが立った。


「や、久しぶり」


 聞き覚えの無い低い声。


「えっ」


 流星だった。


 うそ……声……。


 いつのまにか声変わりしたようだ。


 流星だけど流星じゃない。


 私の知らない、新しい流星がそこにいた。


 母が感嘆の声をあげる。


「りゅうくん、大きくなったわねえ! 声も変わっちゃって」

「どうも……お久しぶりです」


 照れながら母とあいさつをかわす流星。

 そんな二人のやりとりを眺めていると、母が私の方を見て微笑んだ。


「お母さん、先に帰るね。二人でゆっくりしてきな」


 母の余計な一言に、私はとたんに目を白黒させる。


「いやいや、えっ? だって、部活で疲れてるでしょ? 悪いから」

「俺なら大丈夫。時間あるなら、ちょっと話そうよ」


 内心ドキドキしながら、私は小さくうなずいた。


 恥ずかしくて流星の目は見れなかったけど。