「見て! 流星くんだよ!」


 誰かが叫んだ。


 机に頬杖を付きながら、ちらりと盗み見た視線の先。


 運動場の中心でさわやかな笑顔をみせている男の子。



 サッカー部のエースで、校内一のイケメンといわれているらしい。

 おまけに生徒会長までつとめている。



 あれが、あの『りゅう』なの? ホントに?



 私の名前は長森咲麻(ながもり咲麻)

 この春から中学三年生。

 小学五年生の時に転校した私は、三年の時を経て元の町へ戻ってきた。


 中三になってまさか環境が変わると思ってなかったけど、知ってる子もいたし転校の不安は少なかった。


 なによりも……。


 幼少期から、いつもいっしょにいた男の子。


 青山流星(あおやまりゅうせい)


 彼とまた会えるという期待が一番大きかったかもしれない。


 私の後ろでいっつも泣いてばかりいたはずの幼馴染。


 しかし、そんな彼はもうどこにもいなかった。


 男子たちに囲まれて楽しそうに話している彼の姿は、あの頃とはまるで違う。



 艶のある綺麗な黒髪。

 細身だけど適度に鍛え上げられたバランスのいい体。

 なによりもその顔つきの違いは遠目でもわかる。

 当時の面影は残しつつも、目鼻立ちがくっきりとしてぐんと男らしくなっている。


 たった三年でこうも変わるものなのかと、ついつい何度も目をやってしまう。


「はあ……」


 気が付くと、ため息をついている自分がいた。



 たぶん流星は自分にとって遠い存在になってしまった。



 この町に戻ってくることになった時、一番最初に思い浮かべたのは流星のことだった。



 どこまでも広がる空の青を眺めながら、当時のことを思い出していた。