あたしは多分、雪平灰慈という人に、とことん弱く生まれてきたのだと思う。
灰慈くんの声はお砂糖をまぶしたように甘くて優しい。これも1つの弱点だ。大好きな声を聞いていれば、眠たくなってしまうのも許して欲しいの。
綺麗な琥珀色があたしから道路の方へ向かう。どうやら話は終わったらしい。
ガッカリされたらどうしよう。寝落ちしたから、明日から電話無し!っていうのは……出来れば避けたい。
昨日の自分を最大に恨んで、もう二度と寝落ちしないことを神様に誓う。
「ふみ、今度の土曜ひま?」
灰慈くんに予定を聞かれる。幸せだ。
「ポコの散歩当番以外、予定なし、です」
罪人は敬語をつかう傾向にある。
「じゃあ10時に迎えに来るから、買い物付き合って」
「え……」
「なんでも言うこと聞くんでしょ?」
「聞きます!」
横顔の灰慈くんが笑う。生まれ持った美貌を灰慈くんはよく理解していると思う。だって、口の端を数ミリ上げるだけで完璧な笑顔が完成されるのだ。