「(うう、今日も素敵だ……!)」
あたしの心臓はよくやっている。毎朝こんなにときめいて、動くのを辞めないのだから。
「ふふ、おはよう〜」
「さっき聞いた」
「挨拶したの忘れちゃった」
「じゃあ昨日寝落ちしたことも忘れた?」
見蕩れるのもわずか三秒、灰慈くんは短い罪状を読み上げるのであたしの頭上にだけ雷が落ちる。
「あ、あたし、通話中に寝落ちしちゃった!?」
「うん。寝てた」
「うわあ、またやっちゃった……」
「最後らへん、ふみ、寝言で答えてたよ」
さらに、乙女的にNGワードを灰慈くんは告げる。
雷に打たれた上から彗星を落とされた気分だ。
「ご……後生だから記憶から抹消してください、お願いします、なんでもしますので!」
「やだね」
九歳年上で、あたしよりもずっと経験豊富な灰慈くんは、子どもなあたしには買収されなかった模様。
ぷくっと頬に不満を込める。灰慈くんは涼しい顔であたしの不満を指でつついた。
「可愛い可愛い」
「じゃあ、昨日のあたし、記憶から消えた?」
「うん。まだあるかな」
あたしがあからさまに落ち込むと、灰慈くんの肩が揺れる。優しくて、大人な灰慈くんはたまに意地悪だ。だけど灰慈くんが楽しそうなので良いのだ。