あたしにとって、いちばん身近な「恋」は両親だ。旅行の計画を立てる姿、一緒に料理をしている姿、休みの日には二人でデートに出かける姿。たまにパパが謝っているけれど、喧嘩など一度も見たことがない。

両親を見る度、二人みたいにお互いを支え合う関係は素敵だと思うのだ。

お弁当を受け取ってリュックに仕舞うと、サークルの向こう側でつぶらな瞳を寄越す愛犬のポコと出会ってしまう。

きゅるきゅるのお目目は、まるで“僕のご飯は?”と言っているようで。朝の短い時間なのに、こうなると、もうだめだ。

「ポコのお弁当じゃないんだ、ごめんねポコ〜!」

なでなでとコーギーのポコを心ゆくまで撫でて、もう一度立ち上がる。


「行ってきまあす」

「いってらっしゃい、気をつけてねえ」


いつもの声を背中で聞いて家を出ると、鋳物門扉をがちゃんと閉めた。

5月の朝は瑞々しい。七時前の住宅街は静かで、穏やかで、世界にはあたし一人しかいないのかなって、そんな錯覚に陥る。

ひとりきりの世界に、逸る気持ち、ひとつ。

てくてくと動かしていた足はいつの間にか回転数をあげる。