おかげで、朝のこの時間がよりいっとう愛おしく思えるし、昨日は寝落ちしちゃったけれどたまにくれる電話と、手放しで貰える" おやすみなさい "を大切に抱きしめて眠ることが出来るようになったので、我慢の成功例とも言える。

「じゃあ灰慈くん、また夜にね」

「ん。転けるなよ」

「転けないよ〜、わわっ!」

言われたそばからよろめいて、咄嗟に灰慈くんが腰に手を回してくれた。おかげで、盛大に転倒する未来は回避されたけれど、色んな意味で驚いた。

朝から仕事をさせすぎだと、心臓から叱られてしまいそうだ。

無言だけど、灰慈くんの冷ややかな目には、言ったそばから……の意味が感じられた。都合の良いあたしはヘラッと笑い、そそくさと歩いた。


だれにも負けない誇りがある。


3720日。10年と2ヶ月。これが私の片思いの歴史。
膨らんだ気持ちは萎んだり、割れたりせずに今日も最高記録を更新し続けている。


この恋心は私の誇り。


バスを降りて、灰慈くんを見上げた。窓越しに灰慈くんと目が合う。その口が三回動く。なんて言ったかわからないけれど「またな」だということだと受け取って「またね」と口パクで答えて、手を振って校門へと向かった。


彼が、その背中を見詰めてくれることに気付かずに。