「今日は早めに電話掛けるな」

そうして、灰慈くんは約束をくれる。それはあたしの希望だ。喜びだ。

「……いいの?」

「まあ、寝言も面白かったけど」

「もう寝ないです」

「ふみとは普通に話す方が面白いもんな」

王子さまが頬杖をついて、あたしを見上げてくる。

幸せだ。この時間が、灰慈くんに会えるこの世界線が幸せだ。

「それは任せて!灰慈くんに癒しと楽しさを提供することがふみの使命だと思っているから!」

「使命って、大袈裟だな」

「大袈裟じゃなくて、本気です!」

胸を張って言うと、灰慈くんの肩が可笑しそうに揺れた。静かな灰慈くんが浮かべるのは、お星様みたいな笑顔。

喜びで胸が震える。今朝はご褒美になってしまった。だって、寝る前の電話もおまけしてもらえたのだ。

電話もほんの少し前までは毎日のように掛けていたけれど、最近になって、" 灰慈くんの負担になりたくないから、電話はたまにでいいよ"って提案したのだ。

背伸びをした。大人になりたかった。

灰慈くんの答えは決まっていた。" 分かった "だ。

言わなければ良かったかな、と、ちょっぴり後悔した。

だけど、高校2年生の久遠寺ふみは配慮を覚えたの。本当は毎日灰慈くんの声で眠りに落ちたいから、これは一種の我慢とも言う。