「あー……でも、やっぱ、結婚は難しいかな」

うーんと頭を悩ませている間に、灰慈くんは心変わりした。

「どうして!」

「久遠寺 先生が毎日泣きそうじゃん」

言葉に詰まった。パパがそうなる未来が簡単に見えるからだ。しかし、パパにもいずれ認めて欲しいので、対策を練ろうと思う。

灰慈くんは口角をゆるっとあげて、ふ、と笑った。彼は静かに笑う人だなとふみは毎回見蕩れる。それは何も笑う時だけじゃない。いつも冷静で、清潔感があって、何事も動じない。

だから余計に、あたし一人がくるくると回っている。

灰慈くんの周り、あるいは、灰慈くんの手の上で。

灰慈くんの年に追いついた時に、あたしは、灰慈くんみたいに立ち回れるのかなあ……。

バスがいつもの曲がり角に差し掛かろうとしている。ああ、この幸せな時間が終わってしまう。

たまに、今からバスがエンストしないかな、とか邪な考えが過ぎるけれど、バスがエンストしちゃったら多くの人に多大な影響を与えてしまうので、今日もバスはあたしの幸せに終わりを告げてくれる方がよっぽど平和でいい。

「……ふみ」

「はい!」

灰慈くんが静かにあたしの名前を紡ぐ。あたしは、消えゆく流れ星よりも素早く反応する。