去年までは灰慈くんに見蕩れるだけで朝の貴重な時間は終わっていたけれど、高校二年生になった今年のあたしは、もう一段階踏み込んでいる。
やってきたバスに乗り込み、一番うしろの席に二人並んで座った。ここがあたしたちの特等席。
シワひとつないスーツ姿の灰慈くんは、ビジネスバッグをあたしの反対側に置く。
一つ一つの所作に目がいってしまう。今日は特に、指先に。じいっと見つめていれば、灰慈くんの琥珀色があたしに気付く。
「……ん、どした」
「灰慈くんの指、綺麗ですね」
「そうですか。ふみの手は小さいですね」
「そうなんです。灰慈くん、指のサイズ何?」
「知らない」
「できれば薬指のサイズが知りたいな」
「何で知りたいの」
「指輪を贈る時に必要じゃん」
「俺に、指輪?」
「うん。控えめに言って結婚したいなって思って」
「全然控えてないね」
「じゃあ灰慈くんのお嫁さんになりたいです」
「一緒だよ」
「" 雪平ふみ "って、語呂がいいと思わない?」
「" 久遠寺灰慈 "でもいいんじゃない」
「わ、本当だ。久遠寺 灰慈、天才的にすごくいい!灰慈くん、久遠寺家に婿入りして下さい!週一、晩御飯に灰慈くんが好きな献立の日を設けますので!」
「すげえ甘やかすじゃん」
あたしができるものなら何でも差し上げるのだけど、如何せん、灰慈くんはあたしがあげれるものは全部自分の力で手に入れることができる人だから、太刀打ちが難しい。