トムの部屋は物で溢れていた。棚にも作業机にも床にもテーブルにも。普段どんな暮らしをしているのかと思うほどだった。なんの計器かわからないものがあったり、どんな機能をもつのかわからない丸い機械があったり、歯車だらけでどんな動きをするのかわからない時計があったり、フラスコの中には濁った色の液体が蠢き、マイケルの目には意味がわからないものだらけであった。

「トム」マイケルはドアの向こうにに呼びかけた。「君が呼び出したんだろ、待たせるなよ」

「すまないマイケル」ドアが開きボサボサの髪でやつれた顔が覗いた。「見せたいものがあるんだ」

トムは不思議な少年だった。自分の容姿には頓着せず、いつもボサボサ頭で縒れた服を着ていた。いつも何かの実験や工作をして、皆と外で遊んだりもしない。だからと言って、決して嫌われることもなかった。

それは彼の特技のせいだった。

誰かが物を無くすと、トムは必ず見つけてきた。消しゴムや髪留めといった取るに足らないものから、学生証や財布、パスポートといった大事なものまで、無くしたものをトムに告げると、次の日にはトムが見つけ出し、本人の手に戻っていた。

失せ物はトムに聞け。

マイケルはそんな風変わりなトムに興味を持ち、たまに一緒に帰ったりしていた。

そんなトムが、マイケルを家に誘った。

「なにもこんな日じゃなくても良かったじゃないか。もうすぐ始まっちゃう」黒いスーツを払いながらマイケルが愚痴た。「トム、お前まだそんな格好なのかよ、早く着替えろよ」今日はこれからクラスメートの葬儀である。

リサは美しい少女であった。勝ち気で成績もよく、クラスでもよく目立っていた。マイケルも二言三言は話したことがあるが、それほど親しい間柄でもなかった。

そんな彼女が殺されていた。

リサは先月以来行方不明だったが、昨日死体で見つかった。自慢の金髪はズタズタにされ、顔といい体といい、体の前面は刃物で切りつけられ、凌辱の噂も囁かれていた。リサの両親は半狂乱となったが、犯人の目星はついていなかった。

「君さ、先月お母さんの形見のカメオのペンダントが無くなったと言ってたろ。先週クラブに向かうリサが着けていたのを見かけたんだ。だから先月に戻ったら案の定、リサが君の家から出てきたのを見つけてさ、取り押さえようとしたけど……」

トムの言うことがよくわからなかった。先週にリサがクラブに向った?先月に戻る?

はた、とマイケルは気が付いた。この雑然とした部屋に、もしもタイムマシンがあったなら……

「今は先月にリサがいなくなった『未来』だね。はい、お母さんのカメオ。今度は無くすなよ」