和子「あ、お母さん。外した戸がひとりでに閉まってく」
為子「いいのよ。黒子さんが閉めてるんだから。放っときなさいよ」

黒子ずっこける。為子に両手でファイティングポーズを取りながら上手に消える。風呂の戸が開いて服を纏った天使と悪魔が出てくる。

悪魔「あー、さっぱりした」
天使「まんず、ありがとうございましたただ。あとは為子さん、良夫さんばよろしくお願いしますだ。(悪魔を指差して)このやろの毒に当たって虚脱状態になってますけん……あ、と云ってもおらたちの言葉はもう通じないんだっちゃ。へば(東北弁:それじゃあ)おらもひとつ天力(てんりき)をかますだよ。天力、甲斐甲斐しさ。臨!(左右の手を組み人差し指だけを立て合わせる、忍者の手印)」

為子、急にそわそわした様子になる。

為子「あら?それにしてもお父さん、ちょっと長湯だわね。まさか茹蛸になってんじゃないでしょうね。いくら頭ハゲてるからってさあ……」
和子「ねえ。普段風呂の中で歌なんか歌わないのに。それにシャンシャンとかチョイナチョイナとか、一人三役みたいに合いの手まで入れてたわ」
為子「それは私たちも入れてたじゃないのさ(和子ずっこける)。うーん、とにかくちょっと覗いて来ようかね」
天使「ほら、悪魔。為子さんこっち来るだ。早うお暇せにゃ」
悪魔「お、おう。じゃ行こ。(玄関に行こうとする天使に)ばかやろ、こっちだ。こっから飛び降りりゃいいんだ」
天使「あ、そうだったちゃ。ほな……」

天使と悪魔、自宅セットから手を繋いでツラに、舞台端(ぶたいばた)に飛び降りる。和子宅をふり返る。

為子「ちょっと、あんた。いつまで入ってんの?だいじょうぶ?開けるわよ」

       【天力!天使の手印です。ネット上の伊賀ポータルさんから拝借】