和子「いえいえ、どうぞ好きに使って下さい。でもお2人ともお家の前に立派な涼み台を持ってらっしゃるのに、どうしてわざわざあちしの家の前で……?」
布袋爺「ああ?それはやっぱり和ちゃん、あんたの顔を見たいからさ」
寿老爺「そうそう。この柴又界隈随一の器量良しで、気立てのいいあんたのことが気になってね。どう?今日は。会社でいじめられたりしなかったかい?」
和子「(首を振って)うんん。ぜんぜん。第一寿老爺(じゅりょうじい)、あちしはそんな、いじめなんかに負けるような軟(やわ)じゃないですからね」
布袋爺「ははは。そりゃそうだ。和ちゃんが啖呵を切った日にゃあ男だってビビってしまう。寿老さん、そりゃあんたの取り越し苦労だ。(将棋盤に目を落として)ところで何だこの銀は。タダじゃないか。ほい、桂馬でいただき」
寿老爺「はい、どうぞどうぞ。いただいてちょうだい。ところで、さあ、それはどうだかな。今日日世の中すっかりおかしくなっちまって、いじめが大流行りだそうだ。根性があったって一度何かの的にされたら集団で干されるそうじゃないか。やっぱり心配だよ。(将棋盤に目を落として)ふーん、自分で玉の逃げ道をふさぐとはな。ほい、王手。詰みだよ」
布袋爺「なに?詰み?ああ、ちくしょう、22金打ちか。こりゃ気づかなかった。わははは。こりゃ和ちゃん、あんたの守護神を任じるわしが負けたってことは、こりゃやっぱり縁起が悪いわ。この寿老爺の云うことが当たるやも知れん。気をつけた方がいいよ」
寿老爺「何云ってやんでえ。人を疫病神みたいに云うな。こっちだって和ちゃんが可愛くて云ってるんだ。だいたいあんた、元警察署長だったやも知れんが、こっちは現役の町内会長だ。