和子「ううん。ホントに何でもないから。気にしないで、小母さん。それより小母さん、小父さんもう帰ってらっしゃるの?」
困子「いいえ、とんでもない。日が暮れる前に帰って来たことなんて一度もないわよ。いっつもどこかで一杯ひっかけて来るんだから。特に今日は普請先で普請祝いだなんて云ってたから、大酒を飲んで帰って来るわ。きっと。もう今から嫌になっちゃうわよ、私」
和子「本当?小母さんも大変ね。猛男小父さんも飲んだら分からなくなるから。飲まなきゃいい人なんだけどね。ねえ、小母さん。小父さんに喝入れてくれる人、誰かいないの?」
困子「いやしないわよ。誰も怖がって、そんなこと……」

困子、こちらを向き聞き耳を立てている老人2人に目をやる。老人2人、慌てて将棋盤に顔を落とす。

困子「あーっ、私もホント嫌に嫌になった(溜息を吐く)」
和子「(同情して頷きながら)ねえ……」
困子「うん、ありがと(しばらく沈み込む)……あら、でも嫌だ。私ったら、和ちゃんの前で溜息なんか吐いっちゃったりして。ごめんなさいね。ふふふ。それにいつもゴンの奴に驕らせてしまって。その内きっとお礼に上がりますから」
和子「いえいえ。お礼だなんてとんでもない。それじゃ、小母さん、ね?(気を落とさないで)……」

和子、自宅に向かい、困子も家の中に入る。和子、将棋を差している老人2人に挨拶する。

和子「お、やってますね、名人戦。でももう早く帰らないと、お2人とも奥さんに叱られますよ」
布袋爺「ああ、お帰り、和ちゃん。でもどうでもいいけど、あんた、さっきからそればっかりだね」
寿老爺「お帰り。和ちゃん。涼み台また勝手に使わせてもらってるよ」