もうどのくらい歩いただろうか。首輪はあちこちが破け、体は埃まみれ。足だってすっかり硬くひび割れていた。

鳩や鼠の味も覚え、虫だって食べられることも知った。猫も、そうだ、どこに牙を立てれば殺せることもわかっている。口の中に広がる血の匂いと温かさに、気づけば夢中になって牙を立てていた。

部屋の中で暮らしていたあの日々は夢だったのではないか。

やっと入った群れの中で序列をつけられ、上のものにはどのように振る舞うべきなのかも教わった。喧嘩で序列を上げることもできたし、リーダーに舐めてもらうと嬉しかった。

この嬉しさは、どこかでも感じていたと思うけれども。

狩の獲物を探して森の中を進む。周りのいくつもの気配、鳥の声、繁みの匂い、枯れ葉の下の擦れる音、そういったものに注意深く進む。

ふと、嗅ぎ覚えのある匂いに気付く。懐かしく、嬉しく、とても大事な匂い。匂いの強い方に引きつられるように進んだ。段々と歩きが速くなる。匂いに近付くにつれ、確信が強くなった。

とても大事な、あのコ。

私を撫でる手、声、動きを昨日のようにありありと思い出す。

とうとう見つけた匂いの主に、思わず飛びかかっていた。

朋子は最初こそびっくりしていたが、私の汚れきった体に戸惑いを見せていたが、伸し掛る体型、首輪の名残を見て、驚きの声を上げた。

「ノア、ノア!どこに行っていたの、探していたんだよ」

ああ、ああ、この声を聞きたかった。私の名前を呼ぶ、懐かしいこの声。

私の尻尾は千切れんばかりに振り回されていた。