月が蒼く照らす野原を千晶は一人歩いていた。そよぐ風に髪をなびかせ、素足をくすぐる草花もものともせず。

いま、ここにいるのは私だけ。どんな格好でも歩き方でも、咎める人は誰もいない。

ふ、と顔を空に向けると、月から離れた空に星が瞬いていた。

残してきた人たちを思い出す。みんな、どうしているだろう。随分遠くまで来たな。

少し感傷的になった千晶は、叫び声に我に返った。

見廻りの警官が恐怖の顔で硬直している。

ああ、気を抜きすぎた。

面倒なことになるな、と千晶は頭から伸びた触手を伸ばし、警官の脳にナノマシンを埋め込んだ。これで今の記憶は書き換わるだろう。

まだ気づかれるわけにはいかない。


気絶した警官が目を開けると、長い髪の少女の千晶が声をかけた。

「大丈夫ですか、こんなところで寝ていては風邪をひきます。さあ、町に帰りましょう」