英凜(えり)ちゃんは紺色がよう似合うね」


 新品のセーラー服を見て、おばあちゃんがそんなことを言った。

 灰桜(はいざくら)高校のセーラー服は、紺色に臙脂(えんじ)のラインが入り、そのラインと同じ色のスカーフを結ぶ、ごくごくありふれたセーラー服だ。しいていうなら、胸に桜の模様が入っているけれど、校章が入っているという意味ではやはりありふれたセーラー服であることに変わりはない。そして、一応、ここ近辺では一番可愛い制服らしいけれど、私にはそれがよく分からない。いや、可愛くないというつもりはないのだけれど、近辺で一番というほどかといわれると、迷いなく首を縦に振るほどではない。

 そうやって首を捻る私の後ろで、おばあちゃんはせっせと荷物を準備していた。当然、入学式の準備なのだけれど、それはそれとして、私が代表挨拶をするからと張り切っているのだ。お陰で荷物の中にはオペラグラスがある。


「……おばあちゃん、別に代表挨拶っていっても、決まった文章読むだけなんだから。そんなじろじろ見ないでよ」

「なにを言っとるかね、立派なことなのに」


 入学式の代表挨拶は、挨拶の内容は決まっている。それでも、一応、毎年、生の原稿を挨拶者が提出することになっている。つまり、毎年毎年、代表挨拶者は決められた用紙に決められた挨拶文を写経しなければならないのだ、しかも毛筆で。

 だから、そのお知らせを読んだ瞬間、私はおばあちゃんにその仕事を押し付けることにした。おばあちゃんは毛筆が上手い(というか、多分鉛筆よりも筆を握って生きてきた世代だと思う)。おばあちゃんには自分で書きなさいと言われたけれど、おばあちゃんとしても孫の入学式の挨拶文の代筆は嬉しかったらしく、意気揚々と書いてくれた。お陰で私の代表挨拶文は書道の先生顔負けの達筆な字で書かれている。ちなみに最初は草書で書かれてしまったので、原稿を読めないと書き直してもらった。

 そんなこんなで迎えた入学式は、柔らかな日差しに包まれ、春の(つぼみ)が希望に膨らんでいる――とまさしく挨拶文の冒頭のとおりのいい天気なのだけれど、天気がいいのと治安がいいのとは、まったく別の話だった。

 おばあちゃんと一緒に校門をくぐれば、そこに広がるのは、初々しさを体現するかのように、制服に着られた新入生と、何より自由を体現したような極彩色の髪と改造済の制服だ。