桜井くんはすっかり勉強のやる気をなくしたらしく、頭を()()らせながら「んあー、めんどい」と吠えた。


「……あの人が、群青で一番偉い人?」

「偉い人……まあ偉いな、あれがいまの群青のNo.1だ」

「で、まあ、そこそこスゲェ。体格は昴夜と変わんねーけど、それこそ昨日来た庄内とかは蛍さん――ああ、蛍永人さんっていうんだけど、庄内は蛍さんの前だと頭も上げらんねーよ」


 ……全然そんな風には見えなかったけど、人は見かけによらない。あの見た目なら学生アイドルグループにいても特に違和感がないのに。ちなみに、その氏名は推測どおりらしかった。


「でもま、いい人」

「そう、いい人なんだよなあ」


 桜井くんは少し困ったように嘆息した。


「普通にいい人なんだよ。南中学にいた時から番張ってるんだけどさ、あの人。蛍さんが南中で番張ってから、南中の連中はマッジで大人しくなった。あと煙草吸う連中がめっちゃ減った」

「……なんで?」

「蛍さん、煙草嫌いなんだ」


 つまり、俺が煙草嫌いだからお前らも煙草を吸うな――と。そんなにも人のためになる我儘なんてなくて笑ってしまった。確かに、いい人だ。


「だから今の群青って煙草吸うヤツ少ないよな」

「あー、蛍さんが制服に煙草の臭いつくの嫌がるからな」

「二人とも、群青には詳しいのに群青には入らないの? っていうか入るとか入らないとかってなに?」

「そりゃ、群青は一個のチームだからな」


 それこそ概念として理解できていなかったのだけれど、桜井くんは勉強用に広げたノートに図を描き始めた。多分もうテスト勉強はしない。


「群青以外にも色々あるぜ。まあ群青と一番仲悪いのは深緋(ディープ・スカーレット)だな」


 その勢力の大きさを表しているのか、群青と深緋の円のサイズは同じくらいだった。


「それから白雪(スノウ・ホワイト)に黒鴉。他にも色々あるんだけど、まあ群青の連中とやり合うのはこのへんだなあ」


 「色々」と言いながら、桜井くんは小さい丸をいくつか書いた。


「蛍さんが群青のトップやってるみたいに、どこのチームにもボスはいるんだけど、チームのメンバーになるのにボスの許可がいるかどうかはまたチームによって違ってて」

「群青と深緋はそれなりに昔からあるし、上意(じょうい)下達(かたつ)が徹底してんだ。だから群青はああやって蛍さんが前に出てきて、気に入ったヤツは自分で誘うし、そうじゃなくても蛍さんに話を通さなきゃいけない。だから先週の庄内みたいに勝手なことは、本当はできない。今頃、庄内はヤキ入れられてるはずだ」