「入学式のときも話したけどさあ、コイツ、こんなんだけど頭良いんだよ」


 桜井くんはシャーペンを放り出し、頭の後ろで両腕を組んだ。勉強をする気があるのかないのか分からない。


「西中でもずっと一番、でもずっとこのなり。先公(センコー)どもも扱いに困ってさ」

「……中学のときから銀色で、耳もそうなの?」

「そうだよ」


 やっとこっちを見た目には、なんか文句あっか、とでも言われているような気がした。でもそんなつもりはなく、ただ、桜井くんの言う通りだったんだろうなと思っただけだ。


「なんだよ」

「いや……」


 入学式の日はじっくり見る余裕がなかったけど、その耳にはこれでもかというくらいピアスがついていた。いや、私が装飾品の種類を知らないだけで、もしかしたらピアスと呼ぶのは適切ではないのかもしれない。それこそ、耳の輪郭に沿ってるものはピアスではないだろう。耳の上部を貫くように刺さっている棒も、ピアスと呼ぶのは適切ではなさそうな気がした。


「人の耳がそんな珍しいか?」

「ピアスって名前が色々違うのかなあって……」

「はあ?」


 私が何を考えていると思ったのか、雲雀くんは呆れ半分の声と一緒に笑った。雲雀くんは無愛想なわりによく笑う。


「耳に刺さってるもんは全部ピアスかってことか?」

「そう」

「まあ違うよな、これがトラガスだろ、んでこれがヘリックスで……」


 桜井くんが自分の耳を指差しながら呪文みたいなものを唱えた。雲雀くんは「お前、単細胞生物の名前はひとつも覚えらんねぇのにそういうのばっか覚えてんな」とやはり呆れ声だ。


「……それってお風呂入るときに外すの?」

「時々はずす」

「え、俺はずさない」

「はずせよ。化膿すんぞ」

「でもしたことないもん」


 へえ……、と深々と頷いてしまった。二人の話すことは私にとっては知らないことばかりだ。


「……三国、お前変わってんなあ」


 不意に雲雀くんがそんなことを呟いた。ドキリと心臓が揺れたけれど、雲雀くんと桜井くんは多分気付いていない。


「……どこらへんが?」

「え? まあ、俺らに向かってピアスがどうだのこうだの聞いて面白そうにするヤツなんていないし」

「つか俺らがつるむ女子って自分にピアス空いてるしな」

「確かに。三国は空いてないもんな」


 髪を耳にかけているので、ピアスホールがないことは雲雀くんの位置から一見して明らかだった。


「てか、三国、マジでよく普通科なんか入ってきたよね」


 もう本当に勉強なんてどうでもよくなってしまったのか、桜井くんは机に膝をひっかけて、椅子をゆりかごのように揺らす。


「普通科っていったら、昨日の三年みたいなのがゴロゴロいるんだよ。なんか今年は少ないみたいだけど」