教室に着いて座席表を見ると、「池田」の陽菜と「三国」の私の席は教室の端と真ん中に離れていた。陽菜は「マージか。弁当食べるときメンドイね」と呟いた。ただ、座席表にはそんなことより重大な問題があった。

 クラスの座席表には、「三国」と「雲雀」が隣同士で並んでいたからだ。

 ハ行の雲雀とマ行の三国……。自分の苗字を恨んだことなんてなかったし、今も恨みまではしないけれど、少なくとも困惑はした。


「……マジか、英凜。がんばれ」

「……うん」


 いや、雲雀くんは悪い人ではないと思う。入学式中の態度からして、少なくとも下手なことをしなければ危害を加えられることはないだろう。桜井くんもきっとそうだ。あんなにライオンの子供みたいに人懐こい顔をした桜井くんが突然ブチ切れるなんて想像もつかない。

 座席を見れば、雲雀くんはすでに席に着いていた。桜井くんはその雲雀くんの机に座っている。お陰で二人の周りは静まり返っていた。

 その一角である雲雀くんの隣の席につけば、二人の目は揃って私を見た。本当に、二人に見られると、まるで野生の肉食獣に狙われているかのような気分になる。


「あれ、三国じゃん」

「そういえば隣に名前書いてあったな」


 そして、さも知り合いかのように話しかける、と……。いや、知り合いといえば知り合いではあるのだけれど、つい十数分前にちょっと話しただけの関係だ。それなのに、二人がそんな態度で話しかけると、クラスメイトには勘違いをされてしまう。実際、視界に入るだけでも片手を超える人数の目がこちらを向いた。当然、その中には陽菜も入っていた。

 でも二人は意にも介さず、桜井くんは「つか、マジで三国がこの教室にいるのって違和感あるなあ」なんて呑気にぼやく。雲雀くんも、頬杖をついて、式が始まる前にしていたように、じろじろと私を見ている。


「……三国、なんで普通科なんだ?」


 そういえば、桜井くんと雲雀くんは、なんで私が普通科なのか聞かなかったな──なんて考えていたことの伏線を回収するかのような質問だった。


「……特別か普通か、って()かれたら、まあ、普通だから」

「は?」


 とはいえ、返事を用意していたわけではなかったので、つい、素直な返事をしてしまった。そしてそれに対する短い返事と、それとは裏腹に大きな音量のお陰で、雲雀くんが呆気にとられたのが分かった。隣の桜井くんもその目を開いているから、予想外の返事だったのだろうことが伝わってくる。

 そして二人は――ちょっと顔を見合わせた後「ははは!」と明るい声と大きな口で笑った。


「それもそっか!」

「自分が特別か普通かって訊かれたら、そりゃ普通だな!」


 二人の爆笑する声に、目を白黒させてしまった。クラスメイトたちもこちらに視線を向けていて、何事かと言わんばかりだった。