アフターの場所は、店のグループのBAR。
俺も透も、アフターは基本的にここ。
酒飲んだあとの飯は辛いし、ホテルとかまず有り得ねぇ。
たまに、ホテル行こって誘われることあるけど...
「矢真斗くん、今日来てくれてありがとう!私が透にワガママ言っちゃって」
と、透の姫が謝ってくる。
こいつは、いつもそう。
だから俺は透から頼まれたとき、コイツだろうなって予想はしていた。
「別にいいよ。飲みたかった気分だし」
「そっか」
それからしばらく飲んで、帰ろうとしたとき...
カウンター席で男に抱えられる女を見つけた。
なんか、ヤバそうな感じ。
連れか?と思い気にするつもりもなかったが、ふと顔を見るとその女は瑠愛だった。
「アイツ...」
俺は気づいたら、瑠愛のもとへ歩き出した。
「おい、矢真斗!」
後ろで透に呼ばれた気がしたが、今はどうでもいい。
「俺の女に何してんの?」
「は?誰だよ!」
コイツ...
どこかで見覚えがあった。
けど、思い出せねぇ。
「コイツの彼氏だけど?」
「んだよ、彼氏持ちかよ」
と言い、逃げ出す男。
あんな奴どうでもいい。
「おい、起きろ」
と、起こしてみるも全然反応がない。
薬でも盛られたか?
「矢真斗、この子って確か...」
「瑠愛だな」
「やっぱり...あの男、常習犯だぞ」
.......あー、思い出した。
女に眠剤入れた酒を飲ませてホテルに連れていき襲う奴だ。
「やっぱり、盛られてたか」
さて、どうしたらいいことやら。
ほっとくわけにいかねぇしな...
「コイツ、連れて帰るわ」
「は?」
「ほっとくわけにいかねぇだろ」
「そうだけど...」
何をそんなに躊躇ってんだよ。
「無愛想すぎるから、この子」
お前もそんなこと思うのかよ。
店では愛想良くしてたくせに。
「お前って最低」
「は?」
「とりあえず、お前の姫にこのこと教えておけ」
「あ、あぁ...」
俺は瑠愛を担ぎ、店を後にした。
そして、俺の家へと連れて帰る。
別に何かするわけじゃない。
コイツの家知らねぇし、ホテルなんて行きたくねぇし。
仕方なく連れてくことにした。
ったく、世話のやける女だ。
だけど、なんで瑠愛が1人であの店にいたんだ?
あの男にナンパでもされて着いてったのか?
いや、瑠愛のことだから有り得ないだろうな。
無愛想になるくらい人見知りするんだから。
俺は、さっぱり理解ができなかった。
目が覚めると、知らない部屋だった。
確か...天音とバイバイしたあと、帰る気になれず目に入ったBARで飲んでたはず...
だんだん眠くなったとこまでは覚えてる。
でも、おかしいんだよね。
つぶれるほど飲んだつもりはない。
色々考えてると「目が覚めたか」と、男の人の声が聞こえた。
え?男の人...?
「あ...」
声がする方を見てみると、そこには矢真斗さんがいた。
どうして、矢真斗さんが...?
「その様子だと、記憶ないんだな」
「えっと...」
「お前、BARで眠剤入った酒飲まされてた」
眠剤...?
どういうこと?
「眠ったお前を、男がホテルに連れ込もうとしたんだよ」
そんなこと、ドラマとか漫画の世界だけだと思ってた。
まさか、自分がこんな怖いことになるとは思ってもみなかった。
「でも、どうして矢真斗さんが...」
「アフターであの店行ってたから」
「そうだったんですね」
「見かけたらお前だったし、ほっとけないから連れて帰ってきた」
ということは、ここは矢真斗さんの家か。
よく見ると、綺麗な部屋。
「ありがとうございました」
「別に。体は大丈夫か?」
「はい、とりあえず」
矢真斗さんって、クールだけど優しい。
ダメだ、ほんと。
早く帰らないと...
そう思い、立ち上がった。
だけどふらついてしまい、倒れ込む。
「あっぶねぇ。まだ寝とけ」
「いえ、迷惑かけてしまうので...」
昨日、たくさん迷惑かけてしまった。
これ以上迷惑なんてかけられない。
それに、私がハマってしまったら...
「迷惑だと思ってたら、最初から助けねぇよ」
矢真斗さん...
「いいから、寝ておけ」
そう言って矢真斗さんは部屋から出ていった。
優しすぎるよ、矢真斗さん...
私はまたベットに横になり、携帯を確認した。
着信とLINEがたくさん来ていた。
相手は天音から。
どうしたんだろう。
急いで電話をかけ直す。
『瑠愛?やっと繋がった〜!』
「天音…どうしたの?」
『どうしたの?じゃないわよ!透から昨日のこと聞いて心配してたんだよ!?』
え?透さんから…?
あ、矢真斗さん...アフターでって言ってた。
じゃあ、あそこには透さんもいたんだ...
「そっか…心配かけてごめん」
『大丈夫なの?』
矢真斗さんが助けてくれたから、大丈夫だけど…
どう説明したらいいんだろう?
ゆっくりと説明した。
『えー!そうなの?じゃあ、今も矢真斗が隣に?』
と、興奮気味の天音。
「いや、別の部屋に行った」
『そっか、優しいね』
「うん」
ほんとに、優しい。
優しすぎるのよ。
私には、その優しさがどうしたらいいのかわからない。
嬉しいけど…どう反応していいのか...
『瑠愛、戸惑ってる?』
「うん」
戸惑うことしかない。
矢真斗さんといると。
『そうだよね。でも、矢真斗の優しさには甘えていいんじゃない?』
「そうかな...」
甘えたら、迷惑じゃないのかな…
ただの客なのに。
ましてや、昨日が初めましてだったのに。
『気にしすぎ!悪い癖出てるよ、瑠愛!』
「そうだよね...」
『臆病になるのもいいけど、たまたは勇気を振り絞らないとね!』
天音...
天音の言葉が突き刺さる。
私の足りないものは勇気。
いつも、勇気がなく臆病になってしまう。
『瑠愛、大丈夫。矢真斗なら』
「うん」
矢真斗さんなら大丈夫…
って、私も思ってる。
だからこそ...って思っちゃうんだけど...
これは、天音には言わないどこう。
『じゃ!お邪魔しちゃ悪いから、電話切るね!』
と言われて、電話は切れた。
お邪魔しちゃ悪いって、なにが?ってわからなかったけど...
まぁ、いいや。
天音に言われたことを考えていると、ドアがあいた。
「起きてたか」
「あ、はい」
「飯、食えるか?」
ご飯?
そういえば、お腹すいたかも!
「はい、食べれます」
「じゃあ、こっち来い」
言われたまま、私は矢真斗さんについて行った。
案内されたのはリビング。
テーブルには、美味しそうな和食が並んでいた。
「これ、全部矢真斗さんが...?」
「まぁな」
矢真斗さんって、料理できるんだ!
って、失礼なことを思ってしまった。
「美味しそう」
「普通だぞ」
「これ、食べていいんですか?」
迷惑かけたのに、ご飯まで作ってもらって...
私は...どうやってこのお礼をすべきなのかわからない。
「あぁ、好きなだけ食いな」
「いただきます」
お味噌汁を飲むと、出汁がきいてて美味しい。
落ち着く味というか、安心する味というか…
「美味しいです」
「ん、よかった」
私は無我夢中でご飯を食べた。
どれも美味しすぎて。
一番は、味噌汁が美味しかった。
きっとこれ、出汁から取ってるよね?
出汁から取るなんて凄い。
私はいつも手抜きでだしの素とか使ってるのに。