その見覚えのあるペンダントは、昔ある男子高校生に私があげたものだ。
 五年前、六年生の夏の終わり。
 海に行って綺麗な桜貝を拾ったことをおじいさんに自慢したくて、一人でここに来たことがあった。
 そのとき店番をしていた高校生のお兄さんにあげたんだ。

 たくさんの宝石が欲しいと言っていた彼に、学生には過ぎたものよ! とおじいさんから聞きかじった言葉を使って叱り、代わりにこれでガマンしなさいとあげたんだっけ。
 今思うとかなり一方的な行動で恥ずかしいけれど、あれが響さんだったんだ。

 思い出しているうちに、響さんは「またね」と意味ありげな笑みを浮かべてドアを閉めてしまった。
 ドアがしっかりと閉じられ、私は巾着を返しそびれてしまったことに気づく。

 困った私は、とりあえず中身を確認しようと巾着を開けてみて息を呑んだ。

 入っていたのはピンク色の宝石が付いたネックレス。
 響さんの声を思わせるようなとろみのある色合い。柔らかなピンク色の宝石は、小さいけれど五枚の花びらのようで……。
 桜のようなペンダントトップは、どう考えても安いものじゃあなかった。

「こんなものをくれるとか……いったいどういうつもりなのよ」

 頭をかかえたくなった。
 今すぐ閉められたドアを開けて問いただしに戻りたいと思った。

 でも、どうしてだろう。
 「またね」と言われたからだろうか?
 今すぐ聞きに行って返すのはなんだかもったいない気がした。