「……水晶、ですか?」

 うながされて差し出した手のひらの上に乗せられたのは、直径2センチほどの水晶玉。

「ああ、アイリスクォーツだ。成長過程で自然と亀裂が入った水晶なんだ。ヒビが入ったことで、虹色の光が見えるんだ」

 言われて改めて見ると、確かに虹を閉じ込めたような綺麗な水晶玉だった。

「ヒビが入っても……いや、入ったからこそ綺麗に見えることもある。その幼馴染みとの関係も少し変わっただけだというなら、別の見方をすれば綺麗な景色が見えるかもしれない」
「……対人関係と宝石は別物だと思うんですけど?」

 キザったらしい言い方に、私の方が恥ずかしくなってついかわいくないことを言ってしまう。
 でも大人な店主は、そんなかわいくない私の言葉を「手厳しいね」と笑って受け流す。
 その様子もまた落ち着いた大人の男性に見えて、私は自分がいつもより子どもっぽくなっているように感じた。
 だから、少しでも大人に近づけるように背伸びしてみる。

「でも……ここに来て良かったな、とは思いました」

 子どもっぽく拗ねないで、素直な気持ちを告げる。
 すると大人な彼はやっぱり落ち着いた優しい笑顔を浮かべた。

「そうか。俺も、君がここに来てくれて良かったと思うよ」

 見上げた茶色の目は優しく細められていて……。
 懐かしさを含んだ心安まる空間がここにはあった。