「失恋?」
「はあぁ……違いますよ、彼は弟みたいなものでしたから」

 つい、肺の中の空気を全て出したようなため息を吐いてしまう。
 幼馴染みに彼女が出来たからって、どうして私が失恋したと思われなきゃいけないのか……。
 マンガやドラマの影響を受けすぎなんじゃないかな?

「そっか、ごめん」

 でも、すぐに謝ってくれたことで不満が怒りに変わることはなかった。
 自分の間違いをすぐに認める姿勢が大人だなぁと思わせて……。どうしてか、安心感のようなものを覚えた。

「……でも、そうですね。ちょっと寂しさはあります」

 だからかな? つい、累に対して思っていたことをポロリとこぼしてしまったんだ。

「ずっと一緒にいたから、隣にいるのが普通過ぎて……彼女と別れて欲しいわけじゃないんです。ただ……なんか、変わるはずのない幼馴染みっていう関係の中に線を引かれた気分で……まるでヒビでも入ってしまったみたいなんです」

 一通り話しながら、なんで初対面の人にこんなことを話してるんだろうって思う。
 思うけれど、きっとこの店の懐かしい雰囲気がそうさせてるんだろう。
 子どもが冒険を夢見るような……それを見守ってくれているような……そんな優しい雰囲気がこの宝石店にはあった。

 その雰囲気の一員でもある男性店主は、私の話を聞くと少し考えるそぶりを見せて「ちょっとまってな」と私をその場に残す。
 カウンターの奥へ消えてしまった彼は、でもすぐに戻って来て私になにかを手渡した。