色んな宝石を扱う宝石店【KAROBU(カロブ)】。
 特定のお客さんしか来ないというお店は閑散としていて、小学生だった私たちにとってはちょとした秘密基地みたいな場所になった。
 店主のおじいさんも、商品に絶対触らないならと快く迎えてくれてお菓子を用意してくれていることもあったから。

 そんな素敵なお店だけれど、私たちが中学に上がると足が遠のいた。
 単純に部活とかで忙しくなったからなんだけど……。
 ほぼ通い詰めていた状態だったのに、いきなり行かなくなったから不義理をしてしまったような気分になっていた。
 今更かもしれないし、あの優しい店主は気にしていないかも知れないけれど……。
 行きづらいと言っていた累が今はいないから、ちょっと様子を見に行ってみようかなと思ったんだ。

 子どもの頃は街から離れて少し不安になってしまうくらいの道のりだったけれど、背も伸びた今は記憶よりも早く店に着いた。
 ほんのり洋風な雰囲気を漂わせる古ぼけた店構え。控えめにぶら下がっている看板には年季の入ったKAROBUの文字が入っている。
 大人からみれば味があるっていうのかな?
 子どもの頃はサッパリわからなかったけれど、今見たら少しはわかるような気がした。

 昔と変わらない、ギシリと軋む音を立てる入り口のドア。
 昔と変わらない入店を知らせるチリンというベルの音。

 そして、昔とは違う若い男性の「いらっしゃいませ」という声。

 思わず「え?」と声を上げて声の主を見た。
 記憶にある優しいおじいさんの声ではない。もっと若い、少し甘さを含んだようなとろりとした声音。
 目を向けた先にいた人物も、声色のイメージに合うような甘いマスクをしていた。