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 いつもと変わらないはずの歩調で慣れた道を歩く。
 いつもと同じ道、同じ歩調、同じ景色。
 でも、隣にいるいつもの存在がなくて変な感じがする。

 今までだって私か累のどちらかに何かしらの用事があって一人で歩くことはあった。
 なのにそのときと違うように感じるのは、これが一時のものではないと知っているからなんだろう。
 今日だけじゃなく、これからずっと私は一人でこの道を歩くことになる。

 また累と歩くことがあるとすれば、彼が彼女と別れたときだ。

 でも、そんなことは望んでいない。
 私が見たこともないような幸せな累の顔を思い出す。
 大事な幼馴染みの、あんなに良い笑顔を曇らせたいなんて欠片も思わないから。

 だから、ヒビが入ってしまったような線を引いたままでいるしかない。
 現状を変えるつもりがないから、私は一人の帰り道に慣れていくしかないんだ。

 それを受け入れることも別に嫌じゃない。
 ただ、少し寂しいだけ。

 ……でも、寂しいからちょっとだけいつもと違うことをしようと思った。
 いつもは二人で真っ直ぐ家に帰るけれど、今日は少しだけ寄り道をしようと進む足の方向を変えたんだ。

 途中にある商店街の、一つ向こうの角を曲がる。
 その道は少し坂になっていて、商店街の賑やかな雰囲気から離れるように上っていく。

 昔――といっても小学五年生の頃だから六年くらい前のことだけれど。
 親とケンカして家に帰りづらいという累と、少しだけ街探検をしてみようとこの辺りを散策したことがあった。
 そのとき見つけた街から少し離れたお店。
 外観は古くさい骨董品店みたいだったけれど、中に入ると白いものが混じった立派な口ひげをつけた優しそうなおじいさんが迎えてくれた。