「俺、これからは彼女と一緒に帰るから。悪いけど真理(まり)は一人で帰ってくれな?」

 その言葉は、私に小さな衝撃を与えた。
 雷に打たれたような大きなものじゃない。せいぜい、冬の乾燥した朝に不意打ちで攻撃してくる静電気くらいの衝撃。
 つまり、他人からすれば誰でもなることと流されそうな事象だけれど、私にとっては確かな痛みとなって襲ってきたもの。

 ずっと一緒にいた幼馴染みの彼・累(るい)の言葉は、私にとってそういうものだった。

 別に、累を男として見ていて恋愛感情があったわけじゃない。
 ただ、物心つく頃から一緒にいて……なんの疑いもなく、大人になってもずっと幼馴染みとして側にいるものだと思い込んでいた。

 どんなに仲の良い幼馴染みでも、異性である以上片方に恋人が出来てしまったら近くにいるべきじゃない。
 それが一般的な常識であることは知っていたし、私自身そうするのが当然だと思っていた。
 ただ……それが私と累にも当てはまることだという認識が無かった。
 頭では理解していても、感情がついて行かないという状態だと思う。

 私がまともな返事を出来ないでいるうちに、累は好物の肉まんを食べたときよりも幸せそうな顔をして彼女の元へと行ってしまった。

 仲の良い幼馴染みという関係は変わらない。
 ただちょっと、今までより一緒にいる時間が減るだけ。
 それだけなのに……でもそれだけじゃない。

 その証拠に、私と累の間にはなにかの線のようなものが引かれた気がした。
 見えないその線は、まるでヒビでも入ってしまったかのように、累と私を分けたような気がした。