『時代』

「拓実、お前の時代は終わったんだよ。素直に観念しろよ」
 野蛮な拓実の冗談を鼻で笑いながら、貴史はそう言った。いま、拓実は貴史につけられた『オワコン』という名に甘んじている。
 幼馴染の二人は対照的で、拓実を創ったのは、幼いころにもてはやされた経験と、そのときに見聴きした野蛮なものであり、貴史を創ったのは、教科書と、自分自身への劣等感だった。
 彼らが幼いときには、野蛮が表面にあって、生真面目が本質として隠れていたが、いま野蛮は封印され、生真面目の時代、すなわち、貴史の時代であることを拓実も認めていた。
 本質が表面になり、表面が本質になる循環、(時代どおりに)潔癖に言えば、ある一定数の人間の精神性と表象の一致が時代のからくりであり、すべての人間に当てはまるべきものではないことを知っている感受性の強い拓実は、貴史が、自分と時代が同じ姿をしていることに満足げである傍ら、近い将来、また野蛮が来る臭いを嗅ぎつけて、密かに反逆を企てている。