「楓さん」


噛み締めるように彼の名前を呼ぶ。



「ん?」


左に少しだけ頭を傾ける。



楓さんの癖だ。



いつも語尾がハテナの時は必ず左側に首を傾げる。



心臓の鼓動がうるさい。



少し沈黙が流れたあと。



思い切って伝えてみた。



「好きです」



好きにだってたくさん種類がある。



likeの好き、loveの好きじゃ意味はだいぶ変わってくる。



私が楓さんのことが好きなのは間違いないけどどの好きかは自分でも分からない。



だけど、楓さんなら私の気持ちを汲み取ってくれるんじゃかいかってそんな期待すら込めて伝えた。



ずっと、言いたかったこと。



そしてその言葉を聞いた楓さんが少しずつ形のいい唇を開いた。



出てきた言葉は。



「ありがとう」



の5文字。



だけ、と言えばだけなのかもしれないけど私からしてみれば十分だった。



気持ちが伝わってさえいるのならそれで良かった。



「付き合ってください」


とか


「彼女いるんですか?」



とかの言葉はずっと喉につっかえてしまっていて容易に発することは出来なかった。



これで、良かった。