「それなりに稼いでるし、あんた1人くらいなら余裕で養えるよ。仕事しなくていいし、家賃もおれが払う。おれの家も金も、自由に使ってくれていいよ」
「⋯⋯な、に、言ってる、の」
「どう、魅力的じゃない?どうせ捨てるんなら、最後に楽しいことしよーよ」
⋯⋯楽しいこと。
たしかに、4月から今まで、せっかく上京したのに仕事しかしていなかった。
未来に希望なんてない。
貯金が尽きて野垂れ死ぬ前に、なりふり構わず過ごしてみてもいいのかもしれない。
こんな経験、ろくでもない人生の終わりにはぴったりだ。
───なんて。
いろいろ言い分はあるけれど、結局、
この男の綺麗な声と目に、惹かれたのだ。
「⋯⋯ほんとに、もらってくれるの」
「おー、くれんの?」
「⋯⋯あげる」
そう言うと、男の目が細くなった。
目尻にしわができる。
手が伸びてきて、涙の跡に軽く触れたあと、左手を掴まれた。
「じゃ、帰ろーぜ」
「⋯⋯終電、ない」
「ばーか、タクシーだよ」
深夜0時、かすかな街灯の光、細い路地。
綺麗な声をした男に、人生を預けた。