声のする方を見上げると、全身黒ずくめの男。

背中になにか背負っている。

ただでさえ真っ暗なのに、帽子とマスクをしていて顔は全く見えない。


「彼氏にでも捨てられた?」


「⋯⋯ちがい、ます」


「あ、そう」


「⋯⋯そんな、レベルのことじゃない」


「ええ、彼氏に捨てられるのも大概だと思うけど」


「(⋯⋯)」


軽い調子で言葉を吐きながら、よっこいしょ、としゃがみ込んでくる。

目線が同じになり、じっと見つめられる。


「(⋯⋯綺麗な目)」


涼し気な、切れ長の二重。


「どしたん、おにーさんに話してみな?」


そのどうでもよさそうな軽さにつられて投げやりになる。

どうでもいいや、どうせ知らない人だし、なんて心の中で言い訳をした。


「⋯⋯仕事、捨てた」


「⋯⋯ほう?」


「正確には、辞めれば?って言われたから、辞めますって言った。毎日残業だし、嫌味ばっか言われるし。今日も、どうせ辞めないだろって思われてるんだろうなと思ったから、ほんとに辞めてやろうって」