「⋯⋯は?」


「辞めます。今までありがとうございました」


「は、え? っちょ、おい!」


勢いそのままに頭を下げ、コートと鞄を引っ掴んでフロアから飛び出す。

そのままエントランスから出ると、凍える寒さで身体の熱が一気に冷め、ようやく少し冷静になる。


コートを着てからとりあえず駅に向かって歩き出す。

冷たい風のおかげでだんだんと頭がクリアになってきて、───今の状況に絶望した。


「(やらかした⋯⋯明日からどうしよう⋯⋯)」


───生きていけない。


思わず立ち止まる。


ろくに睡眠がとれなくても、あったかいごはんが食べられなくても、収入があったから何とか生きていけた。

都心近くだからワンルームなのにバカ高い家賃も、給料をもらえていたから払えた。

⋯⋯そうだ、すべて、仕事をしていたから。


地面にぺたりと座り込み、かばんをぎゅっと抱える。


家賃どうしよう、仕事行かなきゃ、あんな地獄に戻るなんて、謝らないと、でも⋯⋯


いろんなことが一気に頭を過ぎり、上手くまとまらない。

頬に伝った涙をそのままに、しばらく呆然としていると、


───「だいじょーぶ?」


綺麗な声が聞こえた。