タクシーを降りてから5分ほど歩いたあと、男は足を止めた。
「⋯⋯え、でっか」
「だから言ったじゃん、それなりに稼いでるって」
⋯⋯いや、言ってたけどさ。
こんなでっかい高層マンションに住んでるなんて思わないじゃん。
広いエントランスを抜け、エレベーターで24階まで上がる。
男が背負ってるのは、ギターケースだった。
「はい、どーぞ」
「⋯⋯お邪魔します」
⋯⋯家でもカードキーなんてあるんだ。
ホテルでしか見たことがなかった。
何もかも規格外で呆気に取られる。
広い玄関、並べたパンプスがひどく安っぽく見えた。
男がさっさと奥に向かうので慌てて着いていくと、そこは楽器ばかりが置いてある部屋。
⋯⋯まるで、ミュージシャンのような。
「すごい、ギター」
「はは。そりゃあな」
背負ってるギターケースを置きながら言う。
「⋯⋯作曲家?」
「ふは、やっぱ気づいてねー」
「え、え、なに、有名人なの?」
「さあ、どうだろ」
⋯⋯どうだろってなんだ。