「…ほっぺ?」

目を開けた涼太君は不満げに唇を尖らせた。

「…こ、これが精一杯なの…」

勘弁してください…

今の私にはほっぺにするのでいっぱいいっぱい。

「…顔赤い。かわいい、ほんと。」

涼太君の手が私の頰に触れる。

「ありがとう、菜穂。」

ずるい。

やっぱり涼太君はずるい。

「じゃ、俺が唇にしてあげるね。」

顔を上げるとすぐに降ってきた柔らかい感触。

何度しても慣れない感覚。

恥ずかしくてたまらないのにやめてほしいとは思わない。

「はい、行こう。そろそろ行かなきゃ母さんがうるさいから。」

涼太君からしたくせに、最後にはいつもこう。

「なーほ、手。」

だけどこれでいいのかな。

私と涼太君は。

もうすぐやってくる、新しい生活。

新しい季節。

一緒に迎えられて、すごく嬉しいから。

私は彼の大きな手を握り返した。