はやくも二ヶ月が過ぎ去りようとしている。
ほっと小さな息をつき、
何気なく彼方の空を見つめる。いつの日も変わらない
ゆっくりと静かに流れる雲を追い、
うすらまぶしく照りつける光が溢れ、
両手に目をうつすとき頬から熱く何か流れ落ちる。
身を切るような冷たい風。
どこか寂しいような切ないような、人恋しくなるこの季節。
二十年前もこの思いであった。
物思いに耽った私はいつも夢中で駆けていた。
自転車で明け方も、真昼も、深夜も刻々と生命を刻むように業病に訴え、駆け抜けていた。
自分自身の闇に打ち勝ちたい、その一心で学業の傍らジムでのトレーニングとスイミングに励みプロテインを次々と注ぎ込み、
体躯を強く太くしていった。
鍛えられたのか、
次第に気が大きくなっていった。
毎日何かしらの活動し元気でもあるので、根拠のない自信がついていた。この時点から未来にわかることだが、
それは脳内の神経伝達物質ドーパミン、セロトニンが過剰に放出されていたため、
辛いことを苦しいと感じず、快活で充実しているならばそれはそれでいいじゃないか………
私は一種の錯覚に陥っていた。
そして、
或る日から私は統合失調症のお薬の服用をやめてしまった。
生活にはあまり困っていないし、寝つけさえすれば贅沢はいうまいと、
完全に固定観念が歪んでいった。そもそも夢中になり忙しくもある毎日で服薬タイミングを逸してしまいがちなことがたびたびあった。
中途覚醒と昼間の眠気があらわれハイテンションは夜まで続き、眠剤が効くまで散歩する深夜徘徊を始めた。
季節はいつの間にか進み、肌寒く、私は冬眠するかのように毎日 横になっていた。
そういえば抗精神病薬を随分と服用していない。深い眠りの後、深夜徘徊を繰り返す私は次第に幻想の中にすっかり居着いていた。
ある晩のこと、私はレストランの扉のガラスを割り、座り込む。瞬く間に屈強な男たちに押さえ込まれる場面を最後にここから記憶を失う。
ここは…
…ここはどこだろう?
狭く閉ざされた空間、
まるでカプセルの中のような静けさ。
怪我をしたのか片手を掴まれ、
滑空するかのように移動していく。
車内の窓も開いているのか、冷蔵庫のような凍り付く冷気が薄着の私をチクチクと痛めつける。
ところどころのライトの点滅が毎秒間隔で行き来する。私たちは黙々と深夜のハイウェイをただ走り続ける。
拉致?
私は連れ去られてしまうのだろうか。
…小一時間でも経過したのか、
腕をじっと握りしめる男が、ようやく口を開いた。
「もう着きますよ」とつぶやき、
数分後、車は停止した。
立ち上がってすぐ建物の入り口付近から母に右手を掴まれ男に左腕を押さえられながら人形劇のように一歩一歩と奥に進んでいく。
小部屋に着いたが白衣の男は言葉を何も発さない。ナースさんに一言指示して、
私は筋肉注射を受けた。
…………意識がやがて薄らぐ………
遙かなる過去世に訪れたことがあるような、四角の閉鎖された平らな部屋に連れられてきた。
ときおり小さく電子音が聞こえる。聴覚に異変があるとだんだん主観でもわかり始めている。
しかし痛みがひどい。肩が外れたようだ。全く動けそうにない。それより今は一体、何時であるのか。今の私にはそれを知る方法も、向こうからそれを知らせてくれる可能性もまったくないし、なにもわからない。
どこからか、
叫び声が聞こえてきた。
ここは病院か?それが分かった瞬間、異変が起きた。最大の苦痛。忌まわしき副作用、私は寝ながら首が後ろに引き攣った。
首が後ろに引き攣った瞬間、見えなかったか細い窓枠が見えた。
…眼球上転…
私の首はますます反りあがり、次第に一点しか見えなくなっていく。
そのとき不可思議な光景が見えてきた。
か細い窓枠の間から真っ直ぐに流れ落ちる一筋の水流。綠か蒼くぼんやり流れる滝、あるはずもない煌煌と無音で流れ落ちる滝を私はいつまでもながめたい、刻が許すまで見続けたいと願った。そう感じさせるほど、感覚は現実を捻じ曲げ完全に逃避してしまった。
この流れ落ちる水流は何を意味しているのだろうか?私が生まれる前に見た光景なのかそれとも死後にみる光景なのか整理できないでいる。
私を見守る存在が、
「落ち着きなさい、ゆっくりと流れる水流のように安定しなさい」
と………そのように感じたいが今ははっきり言ってとてもしんどいだけである。
でもずっと見続けるとだいぶ落ち着き、いっそのこと寝てしまいたくなった。
窓の外がうっすらと明るくなってきた。
カタコトカタコト、カタコトカタコト、
何やら、物音が立ち始めた。
廊下の女性ナースさんがドアを開け、
「鳥井さん調子は如何ですか?」と尋ねてきた。私は何も応えることができなかった。激しい痛みと副作用でそれどころではなかった。すると次の瞬間ナースさんはぎょっとする「大変……鳥井さん…腕がパンパンに腫れていますよ」私はあまりにもびっくりし眼球上転はひっこんでしまった。
一体どうなってしまうのだろうか…
女性ナースさんが食事を運んできた。
「なんで朝ごはん食べなかったの?とても美味しいのに…」といい、部屋を後にした。
私は運ばれたカレーライスに手を伸ばすが、
届かない。そもそも身動きがとれないし、声も出せない。こんな過酷とも言える状況は認識できている。外で大きな声がする。騒がしくなってきた。
「鳥井さん立てるか?」と強く男性ナースさんに話しかけられた。ふたりがかりで起こされ、腕をポータブルのレントゲンで撮影した。私は疲れたので休みたかったが再び部屋に入ってきたナースさんに「鳥井さん外出するよ!」私は車椅子に乗せられた。病院の昨晩入場したエントランスを越え、車椅子は静かに進行し、丘の上にある病院の外観は遠ざかっていく。段差を越えるたび左腕が軋み始める。車椅子を押すナースさんは「頑張って!もうすぐ着くよ」
と励まされる。坂道を下ると整形外科らしい外観の建物が見えてきた。私達はそのまま検査室へと入った。
おじいさんドクターがレントゲン画像を見せて説明しているが不思議と声は届かない。聴力はいまだ回復しないが目を開いて画像をよく見てみると上腕のところで腕が真っ二つに折れてしまっている。が、何か引っ掛かる疑問がある。折れてしまっては痛さでそれどころではないだろう。しかしながらわたしはかろうじて正気は保っているのだから……
私達は再び病院に足速に向かい、最初の部屋に戻ってきた。病室にはポツンと冷めてしまったカレーライスがあった。そういえばずいぶんと何も食べていない。おそるおそるスプーンを手にしていただいた。とてもやさしいほっとする味。若干温かい。
親切なナースさんが温めてくださったのだろう。
そのとき安心感からか、心底落ち着いたのか、
涙がつうっと滴り落ちる。私はしばらくうつむいて顔を上げることができなかった。
安心のまま横になり次の日はどうなっていくのだろうと考えているうちに眠りについた。……………
目を覚ますと、また車内にいた。
救急車の車内であった。現実があまり掴めない。
私はいったいどこに存在しているのだろうか?私は夢のなかにいるのだろうか?
どこに向かうか私は尋ねたら「新しい病院だよ」と救命士は応えた。そのようなやりとりをしていると意識は薄らぎ………
ここはどこだろう?
狭い空間
頑丈な扉
シミのついた天井
薄暗く 静かでいて
部屋には機械があり
メーターが音をたてて点滅している
それにしても熱く感じる
それよりも
今はただ眠りたい
ずっといつまでも眠り続けたい
今は何時だろうか?
私は大きな声で「今何時ですか?」と頑丈な扉に話しかけた。
右隣からナースさんが現れ、
「今、真夜中の二時ですよ」といわれた。
突然、私は我を失う。抑制帯で縛られた上半身を起こし宙をぶんぶんと殴り始めた。あまりにも激しいストレスと鬱憤が爆発した。すると明るいナースセンターから、患者らしき人影が見えたので怒鳴り散らした…
「なんでそこから覗くと?!」私は患者に投げかけた。
「気にしないで!ナースセンターだから私たち患者もここに来ないとナースさんに尋ねることができんから…」患者の女は答えた。
当然ではあるが当たり前のことだと私は、理解できずに一方的にキレた。
「いいから覗くな、どっかに行けって!」
……………「うるさい!…………看護師さん、お願いですからこの人を暫くトジコメテ!」
入院も早々、経たないうちに患者同士のコミュニケーションはいきなり臨界に達した。
私は少々感情的になったので急に眠気がやってきた。
「あの患者さん…
…体調悪いから気にしないでくださいね」
ナースさんはお伝えすると、
その患者も「全然、気にしてないよ。ああいう世間知らずの坊やには厳しく言ったほうがいいんですよ」といった。
私はもどかしさからか無性になにくそと思いながら意識を失った。
……
妙に口が渇く朝を迎えた。わずかに漏れる太陽光がカーテンの隙間から私の右目に向けて差している。いつも通りの静かな朝、鳥たちの鳴き声とナースさんの足音がところどころ響き渡る。部屋は蒸すように暑い。たしか真冬のはずだが…冷房をつけてとナースさんを呼んでみる。しかし舌がくっついたかのようにうまく発音できない。
想いは通じたのか、ドクターとナースさんは部屋に入ってきた。
ドクターの名は櫻井。
彼は言った。
「鳥井さんなぜナースコールしなかったのですか?」
「え?」
「左腕が熱を持っていますよ!」
というがなにも返答できない。
「大手術だったのですよ」
私は戸惑った。手術を受けた記憶がまったくないのであるから…
「左腕が熱いのは術後だから?」
櫻井ドクターは躊躇せず答えた。
「ええ、
あなた大変だったんですよ。大暴れ」
「?(大暴れ)」
「しばらくこの病院で……入院していただきます」
「ここはどこですか?」
「ここは球大病院です」
球大病院?最初に運ばれた病院は球大ではなかったような気がしたが。そして大暴れ?
私はいったいなにをしたのだろうか。
「鳥井さんは頑張り屋さんすぎるのですよ、
夜中まで頑張って歩こうとして疲れて休憩したレストランで暴れてしまったんです。だいぶ脳が疲れているので興奮もしているから充分に休息をとられてください」
「はい……」
と答えたが私にはなんとなく引っかかっていた課題が浮かび上がった。学生には実際の骨ほど折れる学期末試験のことである。
私はもしかして休学しなくてはいけないのだろうか?それも想像するとおそろしいが、
いくつも年数が掛かり結果退学してしまうような気がして不安がよぎる。
櫻井ドクターは
「焦らない、焦らない。大学復帰はちゃんと回復してから。しっかり体調を落ち着けましょう」
「人のことだと思ってその言い方はあんまりだ!」学期末試験をまず受けさせようとは、
まったく言っていなくて、もどかしく感じた。それとも骨折がある程度治れば復帰ということだろうか。
「今は治療に専念、専念よ。治療を頑張ろう!」ドクターの隣で力強くそう告げたのは、出利葉ナース。
医療スタッフは患者に対する最も基本的な言葉であり人生でも重要な指針となるアドバイスを私にお伝えした。
女性ナースさんに保清を受けている。とても丁寧に拭かれる。うら若き男性にとっては恥ずかしいといったシチュエーションだろう。
ふと目を下にやる。
尿道に管がついている。
私が最近、なぜかオシッコに行かない理由はそういうことだったのか…
そのとき底のない絶望的な無力感に到達した。仕事中のに怒鳴りつけ、そうしているうちに櫻井ドクターは飛んできた。私は「はやく尿道の管を外してください!」と大声で喚いた。
櫻井ドクターは先ほどのような表情を浮かべ、「鳥井さん焦らない。まず精神が落ち着いて会話ができるようになりましょう」となぜだか裸の私に向けて笑みを浮かべている。出利葉ナースも「あなたは頭がいっぱいいっぱい。落ち着いたら、じき管もはずれる」
と私に云った。
私は夕方まで興奮して誰とも口が聞けなかった。静かにゆっくりと食事が摂りたい、温かいご飯が運ばれてきた。蟹の缶詰のような味のするご飯、ポタージュスープに口をつける。ナースさんと薬を服用する。
…突然、
…背中が反り上がる…
…眼球上転…
私は背中がひっくり返るように後ろの光が目に入る。なぜか真後ろにある発光体から目がまったく動かないし動かせない。
…また始まったか…
今日もまた日は明ける。空気は肌寒く緊張しているが灰色から淡い青に移り変わる透き通る空であった。朝から嬉しいことがある。副作用が起きたにもかかわらず、意外とスッキリしている。管が取れ次第、部屋が変わり、わりと自由が効くらしいと言われた。金子という名の男性ナースが私に話しかけ、
「鳥井くん管が取れても一人でオシッコができなかったらまた観察室に戻されるよ」と言った。金子ナースのいうことも不安を煽っているようにきこえたので、
「大丈夫や」
と反論し、管は外れた。
私は喜びのあまり一気に立ち上がったが太ももに急に重みがかかったように、ストンと座ってしまった。
「はは!ほらね」
金子ナースは笑っている。
私は観察室に戻されたくはないので彼の肩に掴まりながらなんとか用を足しに向かった。彼も大丈夫だろうといい、保護室に送り送られた。部屋からは外出が可能であり、まずはトイレ、お風呂から順次可能という配慮であった。
私は金子ナースに掴まりながらゆっくり移動して、リハビリに使用している唯一の持ち物ゴムボールをギュッと握りしめて期待を胸に新しい部屋に辿り着く。
しかし私の期待は淡くもくずれさる。
いつか訪れたことがあるような閉ざされた部屋、そこにはマットのみある殺風景で簡素化されていて、ポータブルのトイレと鉄格子、ガラス戸と監視カメラ、ところどころの落書き。想像することすらできかねる環境に驚き、はっきり言って一時間たりとも滞在したくない。
与えられた物はラジオのみ。
脳が興奮状態の私は聴こえてくる声さえも
私のことをオンライン中継していると感じ、この世界はたった一人の私、
私のみの世界と盲信してしまう。
世界の周りの人物は皆、演技したり意味深なメッセージを含めていると、
思うようになってきた。
精神科病棟に入って私の世界観は一変した。というよりとても明るい世界から冥界に踏み込み精神の生命活動は事実上停止したといえる。
そう、
絶望状態である。
このようなとき、救ってあげられるのは
いつだって、
……
いつだって ……
最愛の人だろう。
永遠に最愛の人は必ず存在しているし、
まだ今世で出会ってもないが退院して
寛解になると何気なく、
お疲れ!元気?などと挨拶を交わしている かもしれない。
旅は終わるわけにはいかない。
私だって生まれた目的はある!
頑張れているには理由がある!
どんな辛いことがあっても
素晴らしい人生。
輝くまでに美しいひととともに
出逢い感謝して……生きたい!
一段と寒さが増してきたある日、私はコップでガラス戸ガンガンと、打ちつけた。精神状態は完全に破綻した。とにかく入院生活に終止符を打ちたかった。
瞬く間に出利葉ナースが飛んできた。
「鳥井くん今夜中の二時よ、どうしたと?
パニックになるのはわかるけど、そんな調子じゃ退院しても四六時中、助けを呼ぶことになるよ」
「……もう限界です。ここにはいたくない」
「今の状態を先生によく相談してみてごらん。まずゆっくり身体おちつけるのが先決よ」
「相談しても何も変わらないからこんなところに閉じ込めるんだろ!」と私は逆上して拳をガラス戸に打ちつけた。
そのとき出利葉ナースの沸点を越えてしまった。以前にガラス戸を壊して自分の腕まで骨折したのに、暴れてしまい、自分の肉体を顧みず逆上。愚かすぎて言葉の例えは見当たらない。私は二十年後また同じ過ちを繰り返すのだろうか?この病気は脳の興奮、異常のため、混乱した状態でナースが温かく接してあげるのは暫し限界がある。
出利葉ナースは無表情でドンとガラス戸を叩き、スタスタと後ろを向いて足早に去っていった。
暖かい毛布が何より心強い寒空、強化ガラスより弱い光が簡素な作りの保護室を包み込む。とはいっても何ら変わらない状況である。私の病状は寛解には至るものの、一生涯抱える病気であるため、
二十年間、良くなることもあれば悪くなることも…
この時代は感染症が猛威を振るっており、
二十年も経っても建物からは一歩も出ることのできない閉鎖病棟。感染症患者と同じく一歩も出ることのない理由とは、病院の中でさえ危険ということ。外来患者には必ず感染症の方はおられる。接触すると、病棟にウイルスを持ち込むこととなってしまう。
病棟にウイルスを持ち込む前に事前に手を打つのが病棟管理者ということだ。私も感染したくないため、病棟でもマスクをすることとなった。
入院説明でドクターより
感情障害も含め新たな入院で長期入院になることの説明を受けた。かつて出利葉ナースにキレられたあの一件から一人の人間が成人になる長い年月が経ってしまった。彼と再会したのだがもちろん以前のことはほとんど覚えておらず、加害意識も思い込みに過ぎず、また与えられた時間はその過ちを丸ごとさらっと洗い流す。病識を持つということは私達が未来へ余計な障害をこれ以上作らぬように理性的な姿勢を揺るぎなく保ち続けること。
球大病院の一階グラウンド、だれもいない
冬空の下、ひとり佇む。雲は一つにまとまり今にも雪が降りしきってきそうだ。閉鎖の通用口からひとり男性ナースさんが現れた。
出利葉ナース。出会いとは不思議なもので
二十年の歳月が経っても必然的に言葉を交わす時がやってきた。私は顔に皺が増え、彼もところどころ白髪がある。思い出話をすると、
「鳥井くんよくそんなこと覚えとるね。僕はそんな細かいことは覚えてないよ」と言って笑っていた。じっと静かに植物観察して四ツ葉のクローバーを探す彼の姿は歴戦の強者のような風格をも感じさせる。落ち着いてゆったりとした空気。張り詰めていた空気がスッと穏やかになる。
新しい出会いもある。私が初めて入院したときはまだ幼い少女であっただろう有働ナースが私の担当になった。彼女にはなんでも話すことができるほど温和で寛容な姿勢の新米ナースである。彼女の瞳が私はとても好きで入院後もお会いしたいと感じさせてくれるほど私の前では嫌な顔ひとつしなかった。そう彼女に言うと、それも仕事だから!と言っていた。
私の腕の怪我はしっかりと回復した。今では心置きなく大好きな水泳を楽しめるほど。
精神の患者は抗精神病薬を、何年かおきにモデルチェンジ、アップデートしなくてはいけない必要があり、私は調子を崩したのをきっかけに長期作用効果の抗精神病薬を導入することとなった。
体調を崩したきっかけとなった原因は
…ここはあえて答えないでおこう。
人生で本気で調子を崩すほどに
(死にかけるほど)
悩むことは大それた答えではなく、答えはそれしかないともいえる。
人生から本気で私は問われ、未来から無事の人生を…歩めるか警告されているのだろう。
アラームに驚いた脳は動揺を隠せず、機能変調をきたす。
新しい出会いもあり、私は二十年後の未来まで責任をもって私を未来まで私自身が届けなくてはいけない。
今世において出会い続けているあなた、
いつも出会い挨拶をする。
あなたの笑顔が私をなにより元気にする。
罪も穢れも洗い落ちたおおよそ二十年後、
疲れてしまったあなたに私の笑顔を
必ず届けたい。
雲ひとつなく晴れ渡り、風のない静かな昼下がり、病棟の中を散歩しているとき有働ナースが声をかけてきた。初々しく明るく場を和ます自然体の女性。私は彼女の瞳が好きでお話しするときは、いつも目を見ていた。
寒空の中バレーボールを二人で取り組んだ。有働ナースは「私はバレーボールを始めてみたかったけど背が低くて始めれなかった…
入院中に是非教えて!」とマスク姿の彼女は笑顔で言った。
「いいよ。だけど僕は今まで厳しい愛を受けてここまできたから教え方は手加減できないよ」
と彼女に云い、バレーボールのアンダーハンドパスの基礎を手振りを含め教えると、
笑いながら時折りあちらを向いてうっすら潤いのある瞳で哀愁を浮かべしっかり腰を落とす。黙々とパスする彼女を目に焼き付けておきたい。とても麗しい姿…
「私たち医療従事者は感染症を持ち込んではいけないので飲み会や人と密で会うことは禁じられているのよ。鳥井さんとこうやって屋外でバレーボール楽しんだり、みなさんとスポーツするのがなにより私の癒しよ」
私は彼女の残した言葉と記憶を忘れない。
ペンを走らせ感染症、病魔の記憶苦しさを後世に伝えること。そしてなにより病魔を乗り越えた大きな幸せが私たちには掴むことができるというエネルギーのバトンを渡したいと思う。
看護師の皆さん、
ありがとう。あなたたちがいるからこそ
恐ろしい疫病が何度も襲ってきても安心して身を預けられる。
時を待たずして、私は時期に退院する。
果てもない未来に対する責任、今の瞬間を無駄にすることなく精進し続けなくてはいけない。
どんな病も辛い症状も人々の優しい言葉と笑顔がいつも私を前進させてくれる。
疫病、戦争、人生の如何なる困難も祈りご祈念させていただくと必ず良い方向に向かうことを、
そう心より信じて。