拝啓、前世の恋人へ。恋知らずな君を千年分の愛で離さない


 目の前で広げられた懐紙の中を見て、思わず『これって』と声に出た。

椿餅(つばいもち)だよ。蹴鞠 (けまり)の会で頂いたんだ』

 知っている。昼間に宮中で帝が催された蹴鞠があり、たくさんの公達――貴族の若者が参加したそうだ。そのときにふるまわれたお菓子のことは耳に入っていた。
 自分と同じく、帝の后である女御(にょうご)に仕えている女房(にょうぼう)仲間のひとりが、恋人からもらったと自慢していて、ひそかにうらやましく思っていたのだ。

『食べてごらん』と懐紙ごと差し出されて受け取る。椿の葉に挟まれている餅菓子はまだ柔らかい。すぐにでもかぶりつきたかったけれど、こうして会うようになったばかりの男性の前で、はしたなく大口を開けることはできない。

 それでも食べること自体はがまんできず、椿の葉に隠れるようにして端の方をほんの少しかじってみた。もっちりとした食感の後、口の中に甘みが広がった。

『おいしい……』

 こんなに甘くておいしいものを食べたのは初めてだ。頬が落ちてしまうのではないかと、思わず両手で頬を押さえる。

『よかった。あなたの喜ぶ顔が見られただけで、蹴鞠をがんばった甲斐があったよ』
『ありがとうございます』

 頭を下げた次の瞬間、頬にすっと手を差し込まれた。驚いて顔を上げたら、相手の顔はもやがかかったように霞んでよく見えなかった。