拝啓、前世の恋人へ。恋知らずな君を千年分の愛で離さない


 京都旅行からちょうど一週間がたった土曜日の朝。カレンダーも三月に変わり、季節が少しずつ春に近づいてきている。とはいえ、外はまだ寒くて冬物のコートが手放せない。
 智景さんがいる場所は、もうコートなしでいいそうだ。昨夜送られてきたメッセージには、青い海の画像が添付してあった。

 彼は今、仕事で沖縄へ行っている。
 彼がいないリビングはがらんとしていて、広々としたダイニングテーブルもゆったりと座れるソファーも、開放的な吹き抜けでさえ、なんだか私を落ち着かなくさせる。

 顔を洗って顔を上げたとき、鏡に映った自分の顔を見て、彼が出かけに言ったセリフを思い出した。

『そんな顔をされたら行くのをやめたくなるな』

 あのときは『そんなって?』と思ったものの、あのときもこんな顔をしていたのだろうか。想像しただけでじわりと頬が熱くなった。

 ここに来た当初は、彼がいないときの方がほっとしていたなんて信じられない。そう思ってしまう自分にも驚いている。