そしてお父さんの理解もあり、大学へ進学した陸。

この家を出て、初めての一人暮らしを始めたね。

最初の頃は月に一度は帰ってきていたけど、それが3ヶ月に一度、半年、と会える頻度が減っていって寂しく思ったのを覚えているよ。


私は誰もいなくなった陸の部屋に何度も足を運んで帰りを待っていたりしたけれど。


帰ってくる頻度が減ったということは、毎日楽しく充実した大学生生活を送れているっていうことだよね。

近くで見守れないのは残念だけど、陸が幸せであることが私の一番の願いなんだ。


陸が大学を卒業し、社会人になって何年か経った頃。


お父さんがお店で突然倒れてしまった。


慌てて実家に帰ってきた陸だけど、お父さんは息を引き取った後だったね。


私は、悔しそうに涙を流す陸の側に寄り添う事しかできなかったんだ。


それから何ヶ月かして、陸はお母さんに自分がパン屋を継ぐと伝えた。


お母さんは無理して継がなくてもいいと言ったけれど、陸の気持ちは変わらなかったね。


小さかった陸が、こんなにも頼もしく大きく成長してくれたことがすごく嬉しい。
と、あの時お母さんがこっそり私に伝えてくれたんだよ。


私も同じ気持ち。


陸ならきっと、この町でいちばんのパン屋さんになれるよ。