「二年生のホワイトデーにフラれたんだよ、私が侑生に」

「俺がフッた? なんで?」

「受験に集中したいって建前だったけど」


 でも本音は、私が侑生の親友を――昴夜(こうや)を好きだったからだ。

 侑生は、私が昴夜を好きだと知っていた。私が自覚するずっと前から気付いていて、そのせいで喧嘩をしたこともあった。

 私が侑生と付き合い続けた理由に“罪悪感”がなかったと言うと、多分嘘になる。でも私は確かに侑生を他の友達より特別だと感じていたし、少し好きでもあった。それでも私は昴夜に翻弄(ほんろう)され続けた。

 そんな私を見て、侑生は別れを決意した。私から侑生を捨てることはないと確信したうえで、嫌な役目を引き受けてくれた。


「別れた直後は理由が分からなかったし、私も悲しくて泣いちゃったけど……冷静になって、全部私のためだったんだなって気付いた。別れた後も、ずっと私のことを守って、庇ってくれたし」

「別れた後もなんかあったの?」

「ん、色々あってちょっとした虐めっぽいものを受けた。そしたら侑生が庇ってくれた」

「まあ、よっぽどのことじゃなけりゃ庇わないって選択はないだろ」

「でも別れてたのに。優しいよね、侑生は」


 それこそ、別れた彼氏にそこまでしてもらうなんて何様だと私を(なじ)った子だっていた。


「今日はこれを借りてた気がする」

「……借りてた気がする、ね」


 ひょいと侑生がDVDを取り上げる。

 私のクロスボディのカバンの中には子どもっぽいお財布が入っていて、その中に「レンタル100円」と書かれたチケットを見つけた。


「うわ、アナログ。懐かしい」

「未来だとどうなってた?」

「全部スマホ」

「スマホ?」

「スマートフォン」


 夢の中の侑生は首を傾げていた。その手にチケットと五十円玉を渡して、私達は侑生の家に向かう。