「私、自覚はなかったけど、結構我儘で欲張りなんだと思う。昴夜がいなくなる事件を防ぎたいのはそうだけど、そのために侑生を犠牲にしたくもない。最初に話したとおり、侑生にだって、元気でいて、幸せでいてほしい」


 未来の侑生が高校生活を振り返って、“ああ、そういえばあんな頃もあったな”と懐かしく思えるようになってほしい。


「だから――……例えば侑生の誕生日とか、実は過去だと迷走に迷走を重ねてマグカップを買ったんだけど、いま思うと大して知らない相手にした贈り物みたいでセンスないなというか、侑生も大して嬉しくなさそうだったなと思い出して、でもパスケースは多分喜んで……くれたよね? 侑生とそういう付き合い方をできたらいいなと……」


 自信があるのかないのか、よく分からない私の口振りのせいか、侑生は苦笑した。


「……マグカップだったら、凹んでたかもな」

「やっぱり……」

「マグカップがイヤってわけじゃなくて、散々悩んで落ち着くところがマグカップってことに落ち込んでたと思う。英凜と俺の距離はその程度でしかないって」


 私の手の中にある侑生の手が、ようやく意志を持つ。握り返してくる手は、よく知っている優しい手だった。


「……クリスマスだけど、英凜がいいなら、デートして。最後にしたデート、東高の文化祭だし」

「うん」

「弁護士先生を満足させるクリスマスデートは出来ないけど」

「いやそんなの大丈夫だから。大体、弁護士になってからクリスマスデートなんてしたことないし……」


 何が気になったのか、侑生は何も言わずに軽く瞬きをした。でも訊ねる前に「それならいいけど」と続きを引き取る。


「ちなみに、高二のクリスマスは何したの、俺達」

「……確か一色駅のイルミネーションを見て、ファミレスでご飯を食べて侑生の家で映画を見た」

「普通だな。どうせ英凜がいつもどおりのところで飯食えばいいって言ったんだろ」


 覚えていないけれど、そうに違いない。


「……どうせ我儘言いまくるなら、前みたいにうちで一緒に飯作って」

「その程度の我儘でいいの」

「きっと過去の英凜ならしなかったんだから、充分すぎる我儘だろ。後は、まあ、帰りながら考えるけど」


 クリスマスは目と鼻の先で、しかもイブは修学旅行の代休だった。


「……空港でお土産買いたいな」

「お土産?」

「うん。英凜との修学旅行の思い出」


 ――そうか。不意に、過去の侑生が、おそろいのストラップなんてらしくないものを買った理由が分かった。

 あの時点で、私は昴夜と両想いだと分かっていたから、どうせ私と上手くいかないと分かっていたから、最後の思い出を形に残したかったのだ。