「侑生って何の専門医になりたいの?」

「なに、急に」

「器用だから外科医が向いてるのかなって。左利きはスポーツに有利なんじゃないかってくらい安直で素人的な感想」

「分からなくはない発想だな。別に、今のところ何もないよ。これで止まってんの?」

「うん、ありがと」


 返事をしながら髪に触れようと手を伸ばしたとき、不意に侑生の体温が近づいた。

 抱きしめられる、と察知した瞬間には腰に腕が回っていた。

 侑生の膝の中で後ろから抱きしめられ、肩に顎を乗せられる。タイムリープ後も何度も経験したことなのに、心臓は跳ね上がり、体が密着したまま動けなくなった。

 何を言えばいい。いや、何も言う必要なんてない。だって、侑生に抱きしめられるのは、いまの私にとって当たり前のことだから。

 ……たとえ、別れがくると、お互いに分かっていても。


「……英凜」


 唇が肌の上で動く。簪に髪が巻き上げられ、うなじは無防備そのもので、背筋が少し官能的に震えた。

 いや、それより、この声音は。脳裏には、この数日間に何度も過ったあの日のことが浮かぶ。


「……なに?」


 ドクリドクリと心臓が鳴っていた。Xデーは変わらずやってきてしまうのかという緊張もあったけれど、何より、あのときと同じように侑生を傷つけていないかという恐怖のせいだった。


「……クリスマス、昴夜と三人で遊ばない?」

「え?」


 それなのに、あまりにも平和な提案に素っ頓狂な声と一緒に振り向いてしまった。私の体に回っていた侑生の腕は、それに合わせて自然と離れた。


「だめ?」

「いや……、私は、だめじゃないけど……なんでこんなタイミングで」


 わざわざ呼び出してする話ではない。しかも、デートをするのではなく、昴夜と三人? 困惑を浮かべると、侑生は取り繕うような笑みを浮かべた。


「早めに話さないと、決心が鈍りそうだったから」

「……決心って」

「……文化祭のときに言ったろ。まだ整理できていない、だからもう少し待ってほしいって。……あれからもう一ヶ月経った」


 何の決心なのか、そこまで聞いてやっと理解した。


「宙ぶらりんのまま、一ヶ月も付き合わせてごめん。今日で最後に――」

「待って」


 慌てて座り直し、真正面から侑生に向き直る。