そんなところへ、ザッと雪をかきわけ、侑生が滑ってきた。


「やっといた」

「あ、ごめん。道間違えてたみたい」

「ならよかった。山頂、ホワイトアウトしただかするだか、そんなアナウンス聞こえたから」


 遭難でもしたのかと思ってた、と侑生はゴーグルを外す。また、通りすがりの子達が黄色い声を上げるのが聞こえた。

 侑生も、格好いいのにな。私は道を間違えてぼーっとしていて、なんならリフト付近で昴夜と立ち話をしていたというのに、おそらく侑生は滑りながら私の姿を探し、ホワイトアウトのお知らせを聞いて心配までしてくれていた。格好良くて優しいのに、なぜ、私は侑生を好きにならなかったのだろう。


「えー、俺もっかい滑ろうと思ってたのに」

「まだ行けるんじゃね、ゴンドラは動いてるし」

「んじゃ侑生一緒に行こうよ」

「いいけど、英凜は?」

「行く」


 慣れた動きでリフトへ向かう二人に続く。リフトは三人乗りで、少しぎゅうぎゅうと肩を触れさせながら、昴夜、私、侑生の順に並んだ。自然に並ぶと昴夜と侑生が隣り合うはずだったけれど、男が二人並ぶと狭いと侑生が文句を言ったせいだった。侑生は、私と昴夜が隣り合うことを気にしなかった。


「つか、あんなとこで何してたの」

「外人にお店聞かれてた」

「昴夜、すっごい英語ペラペラなんだよ。侑生知ってた?」


 リフトにいるのも忘れて少し身を乗り出し、興奮気味に口にしてしまう。侑生が「え? 知らなかった」と一方の眉を吊り上げれば、昴夜がどこか気まずそうにムッと口を真一文字にする。


「お前の英語、唯一赤点じゃない科目くらいの認識しかなかったんだけど」

「いやいやいやいやいや、英語は赤点じゃないじゃなくて普通に成績良いからね!」

「そういや微妙に発音いいなみたいなのは言ってるヤツいたかもな。顔もハーフっぽいって」

「ぽいんじゃなくてハーフです!」

「でも外人から見たら昴夜って日本人なんだね」

「まあね、そんなもんじゃない? 英凜と一緒にもいたし」

「ごめんね平面顔で」

「そんなこと言ってないじゃん! てか英凜は鼻高くて顔立ちはっきりしてるほうじゃん!」


 ぐらぐらと、ほんのりと揺れるリフトに三人で乗って、くだらない話で笑う。ゴンドラに乗ってもそれは変わらず、降りた後は「ホワイトアウトする前に降りるか」「ホワイトアウトマジで怖いよね、死ぬかと思った」と滑りだす昴夜と侑生に続く。急斜面を滑走する私の前で、二つの後ろ姿はどんどん小さくなった。

 ロッジのあたりまで滑り降りると、昴夜は荒神くん達と合流した。昴夜ほど上手く滑ることができずに置いてけぼりをくらっていたせいで「今度はちゃんと教えろよ!」と憤慨している。