昴夜が隣に座った途端、その身のまとう外の冷気が頬を撫でた気がした。乗客の誰もが厚着をしている座席は少し窮屈で、必然私達の距離は近かった。たったそれだけで胸が熱くなるような、子どものような高揚感を覚えていた。
「……侑生、寝てるの?」
「そうみたい」
「からかってやろうと思ったのに。それ買ったの?」
「ああ、簪?」
「めっちゃ似合ってんね、てかさまになってる」
「……ありがと」
十七歳の昴夜に褒められても、嬉しいものは嬉しいし照れ臭いものは照れ臭い。
反面、昴夜が私を褒めるのに、照れたり恥ずかしがったりしたのを見た覚えはない。昴夜にスマートさなんて感じたことはなかったけれど、そんなところだけはハーフらしかった。
「あれ、でも待って、もしかして侑生と選んだ? 侑生のセンス?」
「侑生が選んでくれた。ちょっと早いけど誕生日プレゼントにって」
「すぐそういうキザなことする。褒めるんじゃなかった」
昴夜がわざとらしく口を尖らせる。過去と違って、昴夜は素直だ。いや、もともと素直なのだけれど、私への好意からくる侑生への嫉妬のようなものを、冗談を交えながらもストレートに口にする。
「……昨日、俺らと一緒に観光したけど邪魔じゃなかった?」
「全然、むしろ楽しかった――」
口にした後で、“それが侑生と二人だと気まずかった”ことの裏返しではないと気が付いた。
同時に、私は“昴夜と二人きりで過ごしたかった”とも思っていないことにも。
「それ侑生が起きてるときに言わないほうがいいよ、侑生は多分邪魔だって思ってたから」
私が言葉を切った理由を失言だったからと勘違いしたのか、昴夜は冗談交じりに笑い飛ばした。
「侑生さ、英凜と付き合ってから優しくなったよね。ていうか丸くなった」
「そうだっけ。侑生って元からこんな感じじゃなかった?」
正直にいうと、ただ高校一年生の頃のことを覚えていないだけだ。
「もっとつっけんどんだったよ、ほらあれ、手負いの獣って感じ。胡桃みたいな女子に噛みついてたからね、ワンワンって」
「それは昴夜でしょ」
「俺も犬じゃないもん」
胡桃と侑生といえば、胡桃は侑生を好きだった頃があったらしい。告白はしなかったけれど、ボディタッチやさり気ない間接キスでアピールをしていたのだと。侑生は、それを手酷くフッた。