硝子細工のお店に入って、ぼんやりしていると「なに、それ気に入ったの」と侑生が隣で立ち止まる。私の視線の先には、ちょうどストラップがあった。
「あ……いや……そういうわけじゃないんだけど。でも、これ可愛いよね」
雪の結晶をモチーフにしたガラスのストラップで、何色か種類があった。スマホにしてから携帯電話のストラップなんて買わなくなったけれど、高校生の頃はたくさん持っていた覚えがある。
……そういえば、侑生とおそろいのストラップも持っていたはずだ。それこそ修学旅行で買った――……。
「……これかも」
「なにが?」
「いやなんでも」
別れることになるのにおそろいのストラップなんて。無理矢理顔を背け、次のお店を見ようと侑生の背中も押す。
それからしばらく、当て所なくぷらぷらと雪道を歩いた。たまにお店に入って暖まり、試食品を口に運び、帰るまでの時間を潰す。
「英凜、こっちの店入ろう」
「いいけど、なに?」
手を引かれるがままに入ったのは簪店だった。侑生が簪を挿すわけがないし、妹さんへのお土産でも買うのだろうか。
そんな想像は見当違いだよとでもいうように、侑生の指が私の髪を梳いた。今までの気まずさを吹き飛ばすような仕草だったせいで硬直した。
「な、なに」
単純に、恥ずかしくもあった。
「早いけど、誕プレにするから、なんか選んで」
「え、でも本当にだいぶ早いよ」
私の誕生日は二月十八日だし、というか私達はいまこんな気まずい状況だし。
「札幌で買ったほうが物珍しいプレゼントになるし。いやここ小樽だけど」
「でも簪って、それなりに値段も張るんじゃ……」
大体、別れることが決まっているのに誕生日プレゼントなんて、侑生にとっては手痛い出費でしかないのでは。それに、こんな風に形に残るものを持っていたって……。
「そりゃいまの英凜が満足する質のものは買わない、つか買えないから。相応の範囲で決めてくれると助かるけど」
「そりゃもちろんそうなんだけど、そういうことではなく……」
「イヤならやめとこうか」
「イヤでは……」
修学旅行で買ったあのストラップは、どこにしまったか分からない。捨てた覚えはないからどこかにはあるのだろう。きっと、一人暮らしの部屋にまとめて放り込んだ箱のどこかに入っているはずだ。そのくらい、あのストラップは私の記憶の外にある。