侑生が一番、それはそのとおりだ。だって私は、“侑生の彼女”だから。


「湿布貼って固定するくらいだから大丈夫だよ」

「それもそっか」


 ごめんね、と内心で侑生に謝った。過去と同じことしかしないから。少しだけ、二人でいさせて。

 保健室の鍵は開いていた。窓の外からはキャンプファイヤーの光がほのかに差し込み、窓際がぼんやりとした橙色に照らされていた。

 明かりをつけて、まるで養護教諭と生徒のように椅子に向かい合う。私の膝の上には包帯と湿布が乗っかった。


「……大変だったね、文化祭なのに」

「んーね、なんでよりによって今日なんだろね。いや今日狙ってたんだろうけどさ、文化祭めちゃくちゃにしたい的な感じで」


 ポツポツと他愛ない話をする。それが終わってほしくなくて、無駄に丁寧に湿布を切って、貼って、包帯を伸ばす。昴夜も急かしはしなかった。

 それでも、いずれ処置は終わる。それが惜しくて、包帯を止めるためのテープが見つからないふりをした。


「……今朝の」


 引き出しの中を漁る私の背中で、昴夜が呟いた。なんだっけ、と一瞬考える。


「写真、やっぱり送ろうか?」

「え、なんで、いいよ」


 そうか、侑生とのキスシーンか。振り向いた先の昴夜は、怪我していないほうの手で頬杖をついて視線を虚空に投げている。


「……でも侑生とのツーショットだし」

「……あんな写真じゃなくてもいいよ」

「逆に貴重かもよ、もう二度と撮らないかも」

「二度と撮らないけどいいよ。大体、侑生だってわざわざ昴夜の前であんなことしなくても……」


 何を続ければいいのかわからず、仕方なくテープを手に取った。昴夜の前に座り直し、その手を取って包帯を留める。


「……ね。思いっきり俺に見せつけようとしてたよね」


 そうだよね、と頷いていいのか分からず、黙っておいた。


「……ねえ英凜」

「……なに?」


 最後のテープを留めた。


「……キスしよ」


 そのまま、手を止める。