張替えでもしているのだろうか。はて、と首を傾げながら足を踏み出したとき、ガクンと階段を踏み外しそうになって慌てて手すりを掴み――目を見開く。
「……え?」
見下ろした足は、オープントウのサンダルの代わりに、シンプルなスポーツサンダルみたいなものを履いていた。それだけではない、ブラウスの代わりにティシャツを着ているし、ショートパンツはティシャツの裾に隠れそうなほど短くなっている。
何かがおかしい、訝しみながら階段を上りきったけれど、私が立っているのは、中央駅の改札口だ。
でも何か……。行き来する人々に、何か違和感がある。その正体は分からないけれど、どこか現実じゃないと思えてならない、妙な違和感が……。
ここは、本当に中央駅なのか。反射的にスマホに頼ろうとバッグに手を伸ばし、自分が持っているのはクロスボディの安っぽいカバンだと気付く。
「……あれ?」
そして、その中に入っていたのはガラケーだった。
これは一体、どういうこと?
「英凜」
つるっと光沢のあるガラケーの表面に映っている自分を見る。一瞬誰か分からなかったけれど、間違いなく自分の顔だ。
「英凜」
――ただし、高校生の。
「英凜、こっち」
ハッと顔を上げると、改札の向こう側で手招きしている男の子がいた。
銀髪の、よく知っている男の子。
駆け足で改札を出ようとして、なぜか咄嗟に定期を出すことができた。優しい顔が「いいよ走んなくて」と笑う。
「……ゆ……」
声が出なかった。狼のように流れる厳つい銀髪、それとは裏腹の優し気な双眸と、そんじょそこらの女子なんて目じゃない美人な顔立ち。
「どうした、英凜」
言葉を失ったままの私に、彼は“英凜”と呼びかける。
「なんかあったの?」
私は間違いなく、三国英凜で。
「……ゆ、うき?」
「なに、俺がどうかしたの?」
昴夜の親友にして高校生のときの彼氏――雲雀侑生が、十余年前の姿で、そこにいた。