「……どしたの?」


 ……いまだって本当は、侑生と一緒に過ごしている時間だ。


「……いや」

「そういや侑生と休憩かぶせてたっけ? 早く更衣室行こ」


 何の写真を買ったのか見られたくない昴夜にとって、私の狼狽は渡りに船だったのだろう。昴夜は封筒をポケットに突っ込み、私の肩を掴んでぐいと無理矢理方向転換させた。


「英凜は――写真たくさん選んだね」

「……卒業した後、見返せるものは多いほうが嬉しいから」


 いまは、私が昴夜の写真を買ったと気付いてくれればいいと思った。私と違って、昴夜には制約がないはずだから。

 でも昴夜の視線は、私の封筒を一瞥(いちべつ)しただけだった。まるで何の期待もないかのように。

 告白できないということは、きっとこれを眼前に突き付けることも叶わないのだろう。そしてきっと、昴夜がこの封筒を注視することもない。

 一般客立ち入り禁止のテープをまたぎ、昴夜を背に更衣室に入った後、これでもかと番号を書かれた封筒を、そっと胸に抱く。

 例えば、見覚えのない写真とか。今日、昴夜と一緒に文化祭を歩いたこととか、写真を一緒に選んだこととか、更衣室まで来たこととか。過去の一部を変えることができることに、もう疑いはない。

 それなのにどうして、私と昴夜の未来は変わろうとしないのだろう。

 パンと携帯電話片手に出ると、昴夜はしかめっ面で携帯電話を見つめていた。そのまま「ごめん英凜、なんか後輩がトラブったっぽい」と顔を上げる。


「……トラブったって、どうしたの? 例の……他校生が来てる?」

「みたい。ちょっと俺行ってくるね、これよろしく」


 首から下げている看板とその手のチラシを私に押し付けて、昴夜は走って行ってしまう。

 今度は、過去と同じだ。他校の不良がやってきて騒ぎを起こし、昴夜と侑生が騒動に引っ張り出される。二人とも生徒指導の先生にこってり絞られて帰る羽目になって、以後は文化祭を楽しむどころではなくなってしまう。私が昴夜と喧嘩しなくても、この過去は変わらないらしい。

 可変と不可変の分水嶺(ぶんすいれい)は、一体どこにあるのだろうか。

 教室に戻ると、侑生はいなかった。陽菜が「雲雀なら慌てて教室出てったよ、なんか外やべーじゃん?」と教えてくれた。教室の中から見ると、南門でうち以外の制服も混ざった乱闘騒ぎが起きていた。中庭を挟んだ反対側の校舎には、その騒ぎを聞きつけて窓から顔を出した野次馬が見えていた。

 騒動を起こしていた人達が散り散りになる頃、ようやく先生が出てきて――真っ先に昴夜に詰め寄る。素行のよくない昴夜はいつだって生徒指導の恰好の的だった。

 そんな昴夜を、私はずっと見つめていた。
 侑生も同じ場所にいたけれど。過去のこの時間にそうしていたように、侑生が教室を見上げていることになど気が付かず、昴夜ばかりを。